PHASE-1387【打って出る】
いくら大型生物を収容できる厩舎を有しているとはいえ――、
「馬たちが怖がらなければいいですけどね」
「ここの馬はそんな事では脅えない。それに――」
「――それに?」
不敵に笑みを湛える高順氏に続きを求めれば、
「打って出るのだから、厩舎はほぼ空き状態だ」
「流石の考えですね」
要塞防衛なのに籠城ではなく迎撃なんだからな。
「いつものやり方で殲滅する」
いつものやり方。その一つが確かエイトリの奇跡って呼ばれてるんだよな。
以前に魔王軍が三千の戦力で攻め込んだ時、要塞戦力はわずか百五十。
その内の百を引き連れ、迫る三千を撃退したって話を王侯貴族の面々が目を輝かせて聞いていたよな。
――高順氏のユニークスキルである【
このスキルによって指揮下に入る騎兵隊の攻撃力と防御力が15パーセントアップという効果。
これに加えて敵が陣を建設していれば、そこへと攻め込むとなると+10パーセントの25パーセントまで騎兵の能力が上がる。
更にこれに加えて高順氏は【騎兵調練】と【騎兵用兵】の通常スキルを有している。
前者の効果は短時間の鍛練で騎兵能力を最大値まで上げることが可能。
後者の効果は騎兵運用時の移動速度や旋回などの機動性が向上し、移動時の乱れもなくなれば、混乱が発生した場合、収拾速度が上がる。
特に高順氏の騎兵用兵はSランクだから動きに乱れは一切生じないし、混乱しても瞬く間に収拾する。
他の有名武将とステータスを比べれば見劣るところもあるんだけども、ユニークスキルの【陥陣営】と他のスキルがマッチしすぎているから、野戦や攻城戦ではチート級な強さを誇っていたのはゲーム内で体験したもんだ。
事実、この世界でもその能力を遺憾なく発揮してくれているからな。
魔王軍を七度も撃退したという話を耳にし、北伐では騎兵達を率いて戦場で敵に絶望を与えていた光景を実際にこの目でも見させてもらった。
強さは折り紙付きだ。
――。
「さて、三万となれば今までにない大軍勢だが、こちらも戦える強者たちがこの要塞に集ってくれている」
「然り、然り」
要塞内の一角で軍議を行う高順氏の横には、バリタン伯爵のところで地頭として活躍しているロンゲルさんが鷹揚に頷いて続く。
高順氏の横に侍っているから、ここでは参謀的な立場なのかな?
自己主張が強そうな人物でもあるから、勝手に位置取りしているとも考えられるけども。
「こちらの戦闘要員は七千だが、要塞自体を守る為にも二千は残す」
「では五千で打って出るのですな!」
「そう考えている」
「一人で六を倒せば良いだけですな」
「その通り」
「ならばこのロンゲル・ポッケオと、有能な我が手勢で他の者たちより多くの敵を倒してみせましょう!」
「頼らせていただく」
「お任せを指揮官殿!」
胸をドンと叩いて戦場での活躍を見てほしいとアピールしてくれば、刺激を受けたのか、軍議に参加している他の面々からもロンゲルさんに負けじと同様の声が上がってくる。
活躍すればそれだけ報酬にも繋がるといった内容の声も上がる。
こういった考えで行動してくれる面々の方が、戦場では頼りになるってもんだ。
励むことで報酬が確実に手に入ることが分かっていれば、がむしゃらになってくれるからね。
「皆さんの活躍に期待します」
高順氏の横で俺が発せば、熱を帯びた声が全体から返ってくる。
「伯爵様の方に是非とも――」
「伝えておきますよ。ロンゲルさんとその一党の大車輪の活躍を」
「何卒よしなに。公爵様」
「その為にも、まずは相手を撃退しないといけませんけどね。手柄欲しさに勝手な動きだけはしないでください。それが原因で陣形が崩れてこちらに被害が出れば、その責はしっかりと負ってもらいますからね」
と、ロンゲルさんだけでなく、周囲の面々にも釘を刺す。
「勇者であり公爵でもあるこの要塞の主の発言を胸に刻んでおくように」
高順氏が発せば、
「独りよがりの行動は、全体をダメにしますからね!」
と、俺の横に立ちコクリコが続く。
うん。ブーメラン発言。
独断専行が不安視されるコクリコが言ったところで説得力がないけども、ほぼコクリコと接点のない要塞の面々。
コクリコの発言を金言とするように。と、高順氏。
自称ロードウィザードの真実を知らないってのは幸せなことだね。
――。
「共に出てくれるのか」
「当たり前じゃないですか。この要塞の最高責任者として、そして勇者としても一緒に戦わせてもらいますよ」
「それは頼りになる」
勇将である高順氏に頼りになるという発言をもらえるだけで誇らしい。
「後方に報告は?」
「無論、勇者達がこの要塞に戻る前に済ませている。王都だけでなく、近隣からも即応可能な増援が来るような手筈となっている」
まあ、ここが陥落すれば、魔王軍にとって大陸中心部侵攻への足がかりとなる場所になるからね。
近くの村々には各領地から集まった兵達も駐屯しているそうで、半日もあれば五千ほどの増援が来てくれるようにはなっているそうだ。
要塞に常駐させればいいのにとも思うんだけども、現在の要塞の詰所の規模や、現状でも拡張している要塞の為に兵よりも非戦闘員の職人さん達の動員を優先させているという。
何よりも野盗の類いにも対応しないといけない事もあるから、全てを要塞に割くことは出来ないってのもあるようだ。
治安は良くなってきていても、油断すればそこからほころびが生じるからね。
「半日で五千の増援が来てくれるってのが今までからすれば恵まれていると考えるべきか」
「その通りだな。だが――」
「増援が来る前に終わらせるって感じですか?」
「当然だ。その為にこの要塞の戦闘要員は常に武技を磨き上げているのだからな」
通常スキルの【騎兵調練】のお陰で練度も速攻で高くなるのがいいよね。
これに加えて日々、油断怠りなく要塞守護に就いてくれている面々が弱いわけがない。
――要塞を出てエイトリと名付けられた湿地帯地点に布陣。
『かなりの数だね。湿地帯を埋め尽くすような進軍だよ』
耳につけたイヤホンマイクに声が届く。
レビテーションを習得してからのシャルナの存在が今まで以上に頼りになる。
現在、高高度から相手側の動きを偵察してくれているシャルナ。
異世界のU-2偵察機である。
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