PHASE-813【DOPE】
「ぅぶぐぅ……な、なななんでぇ……」
「どうした? 馬鹿な顔が更に馬鹿になっているぞ。それになんだその喋り方は? 馬鹿なのか」
「だ、黙れ! 馬鹿馬鹿と連呼するな! なぜマンティコアが……」
「ほほう。なぜマンティコアを知ってんだ」
こいつは魔大陸でお供になった合成獣なんだけどな。
ランシェルの話だと、元々は魔大陸じゃなくこの大陸――カルディア大陸から連れてこられたって話だったけども。
「お前、なんか知ってるだろ」
「黙れ! 許されん事だ。俺だけが特別なのに!」
訳分からん。
「殺せ! だが女たちは生け捕れ」
無理なことを言ってら。
命令を受けるも、ベルに睨まれれば躊躇が生まれたようで、追撃はなし。
大型のモンスターであるチコの存在にもビビっていた様子。
傭兵団はマンティコアの存在を知らないようだな。
まあいい、後で馬鹿息子から聞けばいいだけだ。
地団駄踏んでる壁上の馬鹿を尻目に、俺たちは隙だらけの背中を堂々と見せてやりつつ陣へと戻る。
「嫡男殿は訳知り顔だったな」
「チコのことだろ」
「ああ。合成獣がどこで生み出されたか分かってきたな」
「だな」
「二人して何の話ですか?」
「あの馬鹿息子をボコるって話だよ」
言えばコクリコは、私に任せていただきましょう! とワンドの貴石を輝かせ、腰に下げたミスリルフライパンも掲げる。
――――。
「さて、どう攻めようか荀彧殿」
「正面からが妥当でしょう。側面は山肌によって挟まれておりますし。何よりも古来より拠点攻めで最も名声を得ることが出来るのは力攻めですから」
力攻めで純粋な力を示すのが王としての勝ち方だという。
破壊工作や間者を使用しての内部破壊も手だけど、戦いにおいては卑怯とまではいかないけども、評価もそれほど高くないという。
破壊工作を実行するには金と準備時間もかかるからな。
まあ、破壊工作の準備は前回ここを訪れた時にバッチリと出来ているけどね。
俺としてはそれを実行することなく力攻めに頼りたいけど、そうもいかないんだろうな……。
王様も先生と同じ考えのようで、正面からの力業を望んでおり、先生の言に対して納得するように鷹揚に頷く。
既に数はこちらが勝っている。相手は籠城を選択するだろう。
一気に攻め込んで要塞内に入り込み、馬鹿息子をしばく。
で、お宝をがっつりといただき、情報もいただく。
「こっちには高順氏もいますからね」
拠点攻めとなれば無類の強さを発揮してくれる。
兵数も質も勝っているなら、先生と王様の考え通り力業が一番シンプルで短期で決着がつく。
「よし! では皆、一気呵成に――」
「門開きます」
「なにぃ!?」
攻城戦を開始しようとしたところで近衛からの伝達。
王様が驚きの声を上げる。
「――おお、本当に打って出てきている」
「何を考えておるのやら」
呆れる侯爵が王様に続けば、
「いやいや、ならば討滅すればよいだけのこと」
豪快にかかと笑う伯爵が馬に跨がり、オリハルコンの硬鞭を諸手に持って軽く振り回し、突撃を指示しようとしたところで、
「待っていただきたい」
すっと俺たちの前に立つのはワーグに乗る高順氏。
眼光鋭く迫ってくる相手を見やる。
「明らかに尋常ではない」
と継げば、
「陣形は我が指揮下にある騎兵隊を前面に展開する。よいかな知恵者」
と、更に継ぎ、
「もとよりそのつもりですよ。陥陣営殿」
「では王侯貴族の方々は我らの後方に展開して続くよう」
「了承しましたぞ」
高順氏に心酔しているのか、伯爵は素直にそれに従う。
最初から高順氏が言ってくれれば、この人は出過ぎるって事がないんじゃないだろうか。
にしても高順氏のこの警戒。相手は愚連隊レベルの奴らなんだけどな。
現在も「ヒャッハー」とか「ギャアギャア」と乱痴気騒ぎ。普段通りのお馬鹿集団に見えるんだけども。
「トール。分かるか」
と、ゲッコーさんも真剣な顔つき。
「いえ、分かりません。連中いつもあんな感じでしょ」
「普段から無駄にテンションは高い連中のようだが、明らかにそのテンションが度を越している」
「ドム。あれは薬物を使用していると思われます」
「だろな」
バラクラバを被ったS級さんとのやり取りで出てきた単語。
「薬物?」
その単語を口に出す。
「ああ、麻薬だろう」
「麻薬……」
戦いにおいて恐怖を取り除くために、昔の戦場ではアヘンなどが使用されていたという。
迫ってくる連中もそれに似たものを使用していると判断していいだろうとの事だった。
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