PHASE-812【なんてお馬鹿な顔】
「さあ勇者よ。ここに墓を作ってくれる。そして毎日、墓石に小便でもしてくれるわ」
ガリオンの存在で自分まで強くなったと錯覚しているようだな。
「違うだろう。馬鹿息子」
「貴様! そのふざけた呼び方は止めろ!」
「うるせえ! お前が汚え事を言うからだ。そもそもお前が小便する場所は決まってるだろうが」
「――? 訳の分からんことを」
「お前が出すのは広間の床だろ。それ、しーこいこい」
「ぬぅぅぅ……」
ゲッコーさんに羽交い締めにされたのが怖くて漏らしたもんな。
伯爵が大笑いして発した台詞を真似てやれば、更に顔真っ赤。ヤカンを乗せればお湯が沸きそうだな。
「調子に乗ってくれる! 俺が真の力を見せていない状況だというのに」
逃げない自信ってやつか。
例の巨大な木箱の中身が真の力ってことかな。あの弓術じゃ個人の力ってわけじゃなさそうだしな。
「いつまで話している。さっさとこの壁を突破するぞ」
「な!?」
背後から王様達に代わって俺のパーティーメンバーの一人が合流。
途端に馬鹿息子と傭兵団の動きが止まった。
原因は俺に語りかけてきた存在――ベル。
色欲の強い存在たちにとって、ベルの美貌は最高なのだろう。
「おい」
「なにか?」
「な、名を何という!」
馬鹿息子が鼻息荒く口元を歪めて問うてくる時点で、ベルは柳眉を逆立てているけども、一応は公爵の嫡男ということもあってか、敬語にて名乗っていた。
「ベルヴェット――なんと美しい名だろうか。そしてその名に違わぬ美貌。我が妃とならんか」
「――――はっ。ご冗談を」
「冗談ではないぞ。そんなに照れるな。だが、ウブなのもいい」
「ぅう……」
おお! ベルが後退ったぞ。
別段、照れていたわけでもないのに。
むしろ侮蔑の【はっ】の発言だったのにな。
やはり俺たちの斜め上をいく馬鹿の思考回路は読み取れない。
「愉悦に浸れる生活を送らせてやるぞ」
「結構」
「断ることは許さん。俺が妻にすると決めた以上は妻にする。勇者の側にいたメイドも一緒だ」
ランシェル可哀想……。
しかし、最強さん相手に何とも馬鹿な発言だ。
「お断りする。それに、貴男はゴロ太を欲した。その時点で敵ですので」
「ゴロ太? なんだそのへんてこな名は」
「――――――――は?」
――……おおっと、終焉の訪れかな。
総毛立つ俺の体。ダイフクも恐れからか体を硬直させている。
静かな怒りだというのに、大気が震える。
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃ」
馬鹿でも肌で恐怖を感じたようで、腰が砕けていた。
ベルを震源とした怒気の波紋。
ようやく怖い存在と理解した馬鹿息子は、隠れるように胸壁に身を隠し、先ほどまで強者の風格を漂わせていたガリオンの表情も引きつったものに変わる。
真の強者の前では全てが弱者。
「ゴロ太とは貴殿がなぜか欲した、愛らしく、天使であり、万物の頂点に立つ白い子グマだ」
――…………ベルってゴロ太のことをそんな風に思ってたのか。
なんだよ万物の頂点って……? 天使っていうか神じゃねえか。
だがしかし、あながち間違いではないな。
最強の存在であるベル。その最強さんの心を鷲掴みにしているゴロ太はある意味、万物の頂点なのかもな。
ゴロ太がお願いすれば、ベルは喜んで動くだろうから。【世界が欲しいよお姉ちゃん】とか言おうものなら、反論もせずに【任せておけ】の二つ返事をマジでしそうだよな。
「そうか、子グマの――。俺が王都の新たなる主になった時には、その子グマも手に入れなければな」
胸壁から頭を覗かせてのお馬鹿な発言。
――……なんでコイツは自分の寿命を縮めるような事を口にするんだろう……。
さっきは悲鳴をあげてたのにさ。
数秒前のことを完全に忘れる馬鹿なの?
「不可能なことを言う」
よかった。以外と落ち着きある口調だ。
ここで怒り全開になるのも困りもの。ライラで十分だから。
「不可能ではない。俺には力が……あ…………あ?」
どうした? 有るって言えよ。無いくせに有るように見せてみろよ。
で、何処に目を向けてんだ?
「いつまで話し込んでいるんです。王様も戻りましたからさっさと戦いの準備をしてください。それとも自分たちだけ目立とうと、このまま二人で攻めるつもりですか」
ここでコクリコがチコと共に登場。気に入っているようだな。ガイナ立ち。
馬鹿息子が向けていた視線はコクリコにだったか……。まさかのロリコン属性でもあるのか?
あぐあぐと馬鹿みたいにだらしなく口を開いて。まあ馬鹿だから仕方ないんだろうけど。
というか――――、ガイナ立ちをしているコクリコではなく、その下のチコを見ているようだな。
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