PHASE-811【ゲゲゲの――】

 今の今まで全くもって姿を見せなかったけども、ここに来て存在感に恐怖を纏わせてザッザッと、こちらへと歩んでくる。

 焦げ茶のクロークを靡かせ、青髪は怒りからか静電気を帯びたように乱れ、眼鏡の奥のブラウンカラーの瞳は、心なしか虹彩が薄まっているように見えた。


「アホずらを晒したまま死ねカリオネル!」


「な、なんだその女は! 美しいが狂ったのは趣味ではないぞ」


「貴様の趣味など知るか! いや、知ったからこそ殺す!」


「はあ!?」

 お前が姫を嫁に寄越せとか書簡で伝えたからだろうが。馬鹿たれ。


「死ね! ライトニングピラー」

 指にはめたマジックリングが強く輝けば、高低差無視とばかりに馬鹿息子の足元からバリバリといったけたたましい音が鳴り響き、青白く光る。


「ご無礼を」


「ぐぇ」

 その次には青白い柱が天へと向かって顕現。オムニガルのダークフレイムピラーの雷魔法バージョンか。見た感じ上位魔法だな。

 普通に上位魔法を使用出来る辺り、流石は宮廷魔道師のハイウィザードだな。

 大木サイズの青白い柱の周囲を電撃が迸る光景。

 中心地にいる者は確実に感電死だろう。

 耐性持ちや鍛えている者なら耐えるかもしれんが、残念弓術のカリオネルは即死確定のルートだろう。

 まあ、当たっていたらの話だったけど。


「おのれ! 邪魔だぁ!!」


「貴様がだ」


「くぁ!?」

 ライラが声を上げる。

 怒りのままに次の魔法を発動しようとしたライラだったが、苦痛の声を漏らして肩を押さえて膝をつく。


「あいつか」

 ポツリと漏らす。

 間違いなく強者。へんてこ傭兵団の連中と同様の格好だが、明らかに佇まいが違う。

 直ぐさま王様たちにライラを連れて後退するように伝える。

 これからは兵を動かしての攻城戦。

 王様も陣に戻って攻城戦指揮に携わってもらわないといけないからな。

 その旨を伝えれば、伯爵が近衛と一緒になってに王様とライラを陣の方へと連れて行く。


「蹴りを入れて申し訳ない」


「いや、構わんぞガリオン」

 ライラのライトニングピラー発動時に馬鹿息子に蹴りを入れて、吹っ飛ばすことで魔法から回避させた。

 しかも蹴り飛ばした先には馬鹿息子にダメージがないように、二人の男がしっかりと受け止めていた。

 咄嗟の蹴りに、無駄のない動きからのフォローを入れる二人。

 あの三人は別格だな。

 

 しかし――、


「おいガリオンって人。その楊枝は魔道具か何かか?」

 ライラに見舞ったのは楊枝だった。

 ソレが得意な武器とばかりに予備の楊枝を咥える。


「ただの木だ」

 なるほど。肺活量だけで――ってわけじゃないよな。

 弓の射程ほどの距離まで楊枝を飛ばしてんだからな。それがライラの腕にまで刺さるんだから、間違いなくピリアを使用したものだろう。

 普通に強いのもいるんだな。

 まあ、当然といえば当然か。

 いくら愚連隊のような連中でも、一応の統率はとれているわけだからな。

 力を有しているのが存在し、押さえ込んでいると考えるのが当たり前。


「勇者だかなんだか知らんが、ここで貴様は果てる」

 言ってくれるね。まあでも中二病のようなネーミングの連中と違って、言葉は軽くない。

 実績に裏打ちされた自信が窺える佇まいだ。


「流石はガリオン。副団長の地位は伊達ではないな」


「ありがとうございます」

 馬鹿息子に丁寧な一礼をする辺り、ならず者集団の中では教養がある。

 地位からして傭兵団のナンバー2だろうから、最低限の礼儀作法は心得ているようだ。


 姿勢を戻し、口に咥えた楊枝をぷらぷらと動かしながら俺を高い位置から見下ろすのは、壮年の男。

 礼儀作法は心得ているようだが、髪型はよろしくない。

 栗色の髪が左目を覆っているのは社会人としては失格だ。

 なんなの? ゲゲゲの妖怪をリスペクトしてんの? と、問いたくなるヘアスタイルである。

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