PHASE-810【いや怖いよ……】
「ピリアは?」
「無論、使用している。これでも国を背負わせてもらっているからな。最低限は使用出来るぞ」
なるほどね。ラノベなんかでも以外と王族は強い設定だけど、やはり多くの人々の代表ともなれば実力があるのも当たり前なんだろうな。
伯爵もだし。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その伯爵が怒髪天だ。髪の毛はないけど。
怒りのままに馬をこちらに爆走させて接近してくる。
「何という不忠。貴様の行いは領地没収でもたりんぞ!」
「黙れハゲ頭! 新たなる王の前では意味の無い発言よ!」
「世迷い言を! 王も近衛達に守らせるべきです」
なぜに自分で切り払ったのかと伯爵は王様にもお怒り。
御身を大事にしてほしいということだったようだけど、思いっきりブーメラン発言だよな。
「すまん。あまりにも眠たくなるような矢だったのでな。あれでは当たってやることが難しいくらいだ」
しっかりと小馬鹿にすれば、傭兵団が次の矢を放ってくるので、それは俺がしっかりとイグニースで防ぐ。
剣圧でってのも試してみたいけど、王様を守るという状況下では出来ないので確実性を選択。
「さあさあ伯爵。王様を下がらせてください。王に弓を引いたんですからね。これで言い訳無用。戦いは不可避です」
「逃がすかよ!」
お! ここで馬鹿息子が自慢げに拵えの立派な弓を取り出して矢を番えて――放つ。
「――え!?」
驚きの声を上げてしまった。
予想はしていたけど、流石は馬鹿息子。俺の予想を更に超えてくる。
ひょろひょろと力のない矢は、俺たちのいる位置まで当然、届くことはなく。風にそよぐかのようにして地面に落下。
地面に突き刺さることもなく、コトリと寂しい音を立てて倒れる。
容易く弦を引いたけども、間違いなく三歳児用のおもちゃ弓の張力程度なんだろうな。
「――ふっ」
ついつい鼻で笑ってしまえば、横では伯爵が「ククク――」と小馬鹿にしたような笑いをこぼす。
王様は情けないという表情で嘆息。
ついでに伯爵につられた近衛の面々も笑いをこぼしていた。
流石にこのお粗末な弓術には取り巻きの傭兵団も困惑しており、雇い主の機嫌を損なわないようにする為か、明後日の方向を見ることに徹していた。
「おのれ不忠者どもめ!」
恥ずかしさと怒りから顔真っ赤な状態。
王様に弓引いてるヤツの発言ではないよね。
自分の弓術を誤魔化すように、周囲の者達に俺たちを射殺せと発せば、明後日の方向を見ていた傭兵団がノリノリで応える。
反面、正規の要塞守備兵は、主の恥ずかしい言動を目にしたくないとばかりに、顔を伏せることに徹していた。
自分の格好悪いところをもみ消そうとするかのように、円金貨を百から二百と倍額に吊り上げてくる。
それだけあれば俺のギルドも潤うな。
一枚が日本円で十万円みたいなもんだから――二千万円か。欲しいな。
言えるって事は、持ってるって事なんだろうからね。
勝利してしっかりと頂きましょう。
戦争はインテリな野盗同士の戦いなんだからさ。
にしても、無駄だというのに金に目の眩んだ者達が再び俺たちに鏃を向けてくる。
弦から指を放すその時だった――、
「バーストフレアァァァァァ!」
俺たちの背後から怒りというか、怨嗟の籠もった声と共に、熱風が頭上を通り過ぎていく。
俺は問題ないけど、伯爵は「熱い!」と言っていたから直上も直上。
「ひゃあ!?」や「ひぃ!」といった恐れの声が爆発音に混じる。
壁上の胸壁の一部が破壊される威力。
「な、なんだ!?」
恐れる馬鹿息子。
その台詞は俺たちも使用したい。
「カリオネルゥゥゥゥゥ! 殺す殺す殺す殺すコロス! ゴロスゥゥゥゥゥ!!!!」
「「「「……ええぇ…………」」」」
俺に王様。伯爵に近衛の面々が声をシンクロさせる。
発狂じみた声に俺たちは恐れを抱いてしまった。
恐怖を相手だけでなく俺たちにも振りまく人物は――宮廷魔道師のライラ……。
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