PHASE-809【そんな芸当できるんですね】

「さて見えてきた」

 防塁は以前よりもローマンコンクリート的なものが塗りたくられている。

 防塁に土塁、空堀としっかりと要塞外周も分厚い防御力を有し、その奥には山と山を繋ぐような長い防御壁からなる要塞が姿を現す。

 だがしかし、


「よほど要塞に自信があるのかな」

 防塁には櫓なんかも備わっているけども、折角の櫓も活躍できないとばかりに立哨も配置されていない。


「よし、堂々と行ってみよう」

 勇者として俺一人で行く。

 一応、通り道に落とし穴なんてのがあっても困るので警戒しつつ進み――、何事もなく正面の門の前へと到着。


「たのもー」

 さてさて誰が出て来るかな。


「よく来たなこの不義者」


「おお! まずは逃げずに留まっていることに驚きだぞ馬鹿息子」

 壁上には馬鹿息子とゾロゾロと現れる傭兵団。

 少数の正規兵もいるけど、馬鹿面の傭兵団と違って強張った表情。


「誰が馬鹿息子だ! 貴様! 使者のロイドルが戻ってこないばかりか、宣戦を布告してのこの侵略! 王の戦いとはこの様な戦いか!」


「うん。いいよ。ロイドルはあれだけど、そんなのいいから。わびを入れるなら今のうちだぞ。まあ、ボコボコにはするけど」

 ロイドルをこちら側で手にかけさせようという腹積もりだったんだろうけど、残念。今は俺のギルドで見習い雑用だよ。


「不忠者め! 貴様などが勇者であってたまるか! そしてそんな存在を擁立する王など偽りの存在よ」


「カリオネル!」


「ひっ」

 俺の後方まで近衛の面々と移動してきた王様の開口一番は怒気を纏ったもの。

 怒気に当てられて直ぐさま身を縮めるあたり流石は小者。


「このような無益な戦を起こさせて、未だに自分が正道と思えるか! 貴様のために犠牲になった者達はさぞ無念であっただろう」


「黙れ偽王め! 俺こそが正当な血筋よ」


「馬鹿者が! 正当と名乗るならば、矢面に立ち世界の驚異と戦え」

 この王様の発言に、身を縮めていたカリオネルの口角が上がる。


「それを貴様が言うのか! 王都を壊滅寸前までにしておいて!」

 おっと、馬鹿息子に足をすくわれるような発言を許したね。

 取り巻きの傭兵団もこの発言に呼応してヤジを飛ばしたり、馬鹿息子を称えている。


「確かにそうであった。だがその時、叔父上とお前は何をしていた」

 痛いところを突かれて言葉を詰まらせるかと思いきや、汚点をちゃんと受け入れる事でしっかりと自分を見る事が出来ていた王様は、悠然とした姿で切り返すことが出来た。

 対してカリオネルは舌戦に勝てると思っていたのに平然とした顔で切り返してくるのは想定外だったのか、あわあわとし始める。

 所詮はこの程度。ちょっとしたことで直ぐに浮き足立つ。


「もう一度聞く。何を――」


「黙れ偽王め! あの愚か者を射殺した者にはダーナ円金貨を百枚くれてやる」

 食指を王様に向け、無粋で恰好の悪い発言で無理矢理に話を断ち切る。

 コイツはずっとこんな感じなんだろうな。

 まあ、周囲の連中も「ヒュゥゥゥゥウ」とか「ヒャッホー」などと馬鹿と欲望丸出しの声を上げるわけだけど。

 相手が王様であろうとも、躊躇もせず弓とクロスボウに番えた矢を向けてくる。

 円金貨百枚は自分がいただくとばかりに、我先に構えれば、即、放つという蛮行。

 

 俺も近衛の方々も即座に防御態勢に移行するけども、


「愚か者が」

 と嘆息をこぼした次には、


「ぬぅぅぅん」

 馬上にて鞘より走らせて勢いよく抜き出た剣。

 裂帛の気迫により振られる美しい白刃から、ブォンと豪快な音が発生。

 一振りの剣圧によって、飛んできた矢を斬り落としたのもあれば、圧により矢の威力が殺されて、ハラハラと地面に落ちるのもある。


「「「「おお……おお!」」」」

 近衛の皆さんと感嘆の声を漏らした。


「何を驚くのだトール。この程度、トールにとっては造作もないだろう」

 ――……いやいや。

 やった事ないから分からねえ。

 確かに三下から放たれた矢をキャッチはしたけど、剣圧でってどうなんだろう?

 

 今まで躱すかイグニースを使用して対応していたからな。

 それにしても、なにその強者の風格と膂力。

 王様って強いんだね。

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