PHASE-814【キメすぎ】

「となると、ベルセルクルのキノコでしょうな」


「然り」

 侯爵と伯爵。会話を耳にする王様が首肯する。

 名前からして狂戦士感が出ているキノコだな。


「使用を禁止しているモノだがな」

 王様が不満を漏らせば、正規の軍では使用を禁じられているけども、傭兵団にはそれが適応されないのを逆手に取ったのだろうと侯爵。

 今後は全体での使用を禁止するように布令を厳達しないといけないと王様。

 王命として領主達には協力してもらいたいと発せば、周囲の貴族達は皆して良い返事。


「では、先駆けとして動く」


「お願いします陥陣営殿」

 先生が送り出すように馬用の鞭を前方へと向ければ、ワーグが一度唸って前へと進む。


「俺たちも続くぞ」

 ダイフクに跨がり騎兵達と併走すれば、パーティーメンバーも続いてくれる。

 ゲッコーさんは一応の備えとして、S級さん達を王侯貴族の護衛につけさせる。

 空を見上げればリンも今回は最初から参加してくれるようだ。

 更にその上空では侯爵の精鋭である竜騎兵によるラフベリーサークル。

 要塞のさらに奥を監視してくれている。


 以前、先生が糧秣廠にて兵士長のマンザートを口で追い込んでいた時、要塞の奥側に形だけの援軍が来ている事を言っていた。

 形だけだから救援はないとは考えているけど、万が一その援軍が馬鹿息子の救援に来られても困るから、ああやって上空で警戒してくれているわけだ。


「おいおい。本当に何も考えずに突っ込んできてるぞ」

 立派な軍馬に跨がるのは不釣り合いな連中。テンションが馬鹿高く、軍馬たちも迷惑していることだろう。

 得意げに得物を振り回しながら驀地により迫ってくる。

 隊伍なんてない。自由気ままに突っ込んでくる。

 奇声を発しながら振り上げる戦斧。大振りで隙だらけになった上半身に、先頭を走る高順氏の無情の槍が突き刺されば絶命。

 後続の征東騎士団を中心とした騎兵達もそれに続き、迫ってくる者達に騎射をしかけ、槍で突く。


「おお!?」

 と、ここで数人の征東騎士団が馬から落馬。

 飛びかかってきた傭兵団によって落とされた。

 そのまま馬乗りになって刃を騎士団に突き立てようとしたところを今回は騎士団で副団長となっているイリーが、自慢の剣にて命を刈り取る。 

 イリーに続くように、騎士達によって落馬した者達が救われる。

 高順氏のスキルのお陰か、見たところ死者は出ていない。

 やっぱ凄い能力だな。


 にしても、恐れずに馬上から跳躍して襲いかかるとはね。テンションだけでなく力も上がっているようだな。


「あれもキノコの効果ってやつかシャルナ」

 動植物に詳しいハイエルフに説明を求めれば、そうだよと返ってくる。

 ベルセルクルのキノコ。興奮状態となり恐怖状態を完全に克服し、痛覚を麻痺させる。

 痛みの感覚が無いから力をセーブすることもないんだろう。リミッター解除の火事場の馬鹿力ってやつだな。

 俺が禁忌にしているピリア・ブーステッドのお手軽バージョンって感じか。

 しっかりと急所を突いて戦闘不能にするか殺害しない限り、動きは止まらないようだ。

 その証拠に、体に数本の矢を生やしても痛みを感じるような表情を浮かべることもなく、敵対者に襲いかかる。


「ゾンビみたいだな」


「ヒャァァァァァァァア!」

 言ってる側からヒャッハーなテンションで馬から跳躍して俺に躍りかかってこようとする傭兵。

 とりあえずイグニースを展開してシールドバッシュで殴りつければ、煙を上げながらゴロゴロと地面を転がる。


「げ!?」

 転がっても直ぐさま立ち上がり、俺の騎乗するダイフク目がけて全力疾走で追いかけてくる。

 流石に追いつけないだろうと思っていたが、肉体強化というか、リミッターが外れるているのが原因か、猛追速度は驚異。

 

 テンションの高い声を叫ぶ傭兵の手がダイフクの尻尾に届きそうになったところで――ゲシリ――と、普段は攻撃をすることもなく俺を乗せるダイフクが見せた後ろ足一閃。

 追いかけてくる傭兵が吹っ飛んでいった。


「やるなダイフク」

 ほめて首をポンポンと優しく叩けば、「ブルル」と喜んでくれる。

 正面に目を向け、頭が飛んでいる連中を迎え撃つように睥睨。


「おんな゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 薬物をキメて馬鹿になっているけども、男と女の判断は出来るようで、うちのメンバーである女性陣に対して群がってこようとする。

 なんとアホな選択。悪手も悪手よ。

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