PHASE-815【不可避……か……】
女と叫びながら迫ってくる野郎達の前に立ちはだかるのは、黄色と黒の二色からなるローブ。
女性陣代表として最年少のコクリコが仕掛ける。
チコの背にてガイナ立ちからワンドの貴石を黄色く輝かせると、今回は征北の時と違い、しっかりと左手首と右足首の装身具にはめ込まれたタリスマンも輝く。
――つまりは手加減なし。
悪漢は近づけないという気概と共に、
「気持ち悪い連中です。アークディフュージョン!」
効果の上がった伝播する電撃はかなりの威力。
普段よりも音も大きく、バチバチではなくバリバリ。
触れると直ぐにダウン確定だと思いきや、
「なんですと!?」
驚くコクリコ。
電撃をくらっても動いている。
可哀想なことに痺れて動けなくなったのは軍馬だけ。
電撃に暴れる軍馬から放り出されて地面に転がるけども、立ち上がるバイタリティ。
もちろん鈍い動きになっているけど、動ける事に俺も驚き。
だってコイツ等ってただの雑魚勢なのに、スタン系くらって、あげくに落馬ダメージもあるのに動けるとか。
「すげーキノコだな」
と、しっかりとキノコの方で驚く俺。
「希少なキノコなんだけどね」
たしか天然の方が自然のマナと交わっていい素材になるというのを以前シャルナが言っていたのを思い出す。
「でもこの数だろ」
「うん。間違いなく栽培物なんだろうけど、痛覚だけでなく、神経も強化されているみたい」
「つまりは?」
「栽培の中で新たな新種が出来た可能性がある」
「公爵領ではそういった研究をしてんのかな?」
「王土に次いで大きな領地だからね。あってもおかしくないかも――っと」
鈍い動きであっても俺たちの前に立ちふさがってくる傭兵団に、会話を阻害されてお怒りのシャルナがアッパーテンペストを唱えて吹き飛ばしてから、
「それは追々、調べるでしょ」
「まあ、公爵領に入れば王様達も色々と調査するだろうさ」
奴隷は禁止されているのにラルゴ達みたいな奴隷がいたわけだしな。
良からぬ事をやっているならその辺をしっかりと調べないといけないだろうな。
まったく。魔王軍だっていつ再侵攻してくるかわからないのに、この北の連中は時間と手間をかけさせてくれる。
「迷惑この上ないな!」
流石に面倒くさいのでイグニースをダイフクの前面に半球状で展開し、立ちふさがる連中を炎の盾で吹っ飛ばしていく。
「まるでV-MAXみたいだな」
「大型バイクの傑作だが、なんの関係がある?」
「いや、そこは流してください」
ゲッコーさんは微妙に知識があるからね。そっちじゃないんです。
それはともかくとして、イグニースによる突破力は絶大だった。
「勇者が来るぞ。狙え」
お! まともに口がきけるのがいると思ったら、そうか、正規兵もいるもんな。
壁上よりクロスボウを向けてくる者もいれば、しっかりと魔導師もいるようで手にするスタッフを俺たちへと向けてくる。
「一気に突入したいところだけども、門が閉まってるな」
キノコでハイにさせた連中を突っ込ませて、馬鹿息子は要塞内に籠もるか。
「トール! 今こそこの戦場に集った者達に奇跡を見せてやれ」
「分かりました」
俺の二つ返事にゲッコーさんは怪訝な表情。
門が閉じられていても問題なし。
というか俺は心の中で小躍りだ。
なんたってマッチポンプ奇跡を使用する前に、相手が狂ったように突っ込んできてくれたからな。
これで馬鹿踊りをしなくていい。
ただ切っ先を向けるだけで、特効のゲッコーさんが起爆してくれることだろう。
「ではお願いします」
「いや、躍れよ」
「事は急を要しますので。騎乗中ですし」
「だったら馬上で躍ればいいだろう!」
「そんなぁ……」
なにマジのトーンで俺を威圧してきてんの……。
しなくていいという思いからの俺の喜びは、ゲッコーさんの眼力で反対のものに変わる。
結局、馬鹿踊りは不可避なんだな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます