PHASE-816【馬上剣舞によるマッチポンプ】

「さあトールやってください」

 嫌なのに、俺の気持ちも分からないコクリコが煽ってくる。

 チコの上でガイナ立ちしているんだから、抜群の体幹を持つお前に代わりにやってほしいとすら思うけどな。


 コクリコの快活ある声が伝播すれば、後方の王様たちにもしっかりと伝わったようで、奇跡が見れるということからか、後方から期待の声が大波となって俺の背中にぶち当たってくる。


「さあ、頼むぞ」

 悪そうな笑みのゲッコーさんは当然とばかり俺の背後。

 先ほどみたいにダイフクが蹴りでも入れてくれればいいのに……。


「ふぅ~」

 仕方ねえな。


「頼むぞダイフク」


「ブルル」

 任せてくれとばかりの返事。

 ダイフクは俺の体をしっかりと制してくれながら走ってくれる名馬。ならば俺もコクリコに習おう。

 チコに比べれば立つ位置は限定されるけども、


「おいしょ!」

 半ば投げやりの気迫で立ち上がれば、


「おお!」

 手綱を持って立つ姿勢は若干内股。衆目を浴びている状態で勇者が内股なのもよろしくないからと恐怖を振り払い、左手で手綱をしっかりと握りつつ、横にいるコクリコを見ながらのガイナ立ち。

 ありがとうダイフク。お前だからこそ俺は立つ事が出来る。いや、立たせてもらっている。

 安定しているのは敏捷性を上げるピリアであるラピッドの効果もあるからだろうけど、ダイフクが俺のわずかな動きにも合わせてくれている事が大きい。

 ダイフクに依存しての人馬一体。

 安心して立てるとなればこっちのもの。


「いきますよ特効の人」


「お任せあれ」

 両足で鞍に立ち、右手で抜刀しつつ、切っ先を向ける。

 と、同時に爆発。

 起爆スイッチのカチッて音に紛れて残念そうな舌打ちも聞こえた。

 なんだろうか、もっと派手に動けって意味合いなのかな? その舌打ちは。

 まあいいさ。立てるようになれば存外に恐怖はない。

 なんなら結構な冒険もしてやろう。

 大丈夫だ。失敗しても落馬するだけさ。ってな感じで自分に暗示をかけつつ、


「はい! はい! はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 左手でしっかりと手綱を握り。立ったまま体を横に寝かせたり、跳躍して一回転いれつつ切っ先を向ければ爆発が続く。


「いいぞ。もっとはじけて見せろ。俺に可能性を見せてくれ。次々といくぞ」


「了解ですよ」

 可能性ってなんだよ。新米アイドルを鼓舞するような台詞だな。

 俺が馬上でアクロバティックに切っ先を向ければ、向けたところが爆発していく。

 爆発の奇跡に驚く面々の声が爆発音を消し去るほどだったのは、恥ずかしくもあるし、マッチポンプなんだけども――存外に気持ちのいいものだった。


「次そこ!」

 鞍の上で横捻りしつつ向ける先では胸壁でクロスボウを構える公爵兵。

 驚きの表情に変われば、依託射撃の姿勢をやめて、俺の視界から消えるように勢いよく逃げ出す。

 征北に指揮されていないと統率はやはりとれてないと見ていいな。まああんな馬鹿息子のために懸命にならないのは賢いって判断しよう。


「もう一回、門に向けろ。ど派手にな!」

 俺のへっぽこ馬上剣舞にテンションの上がるゲッコーさんの声は大きい。その声に従って馬上で蜻蛉を切ってから向けることで大爆発。

 鋼鉄の門が軋み音を立てながら倒れていく。

 門自体が爆発により倒れるのではなく、蝶番部分を破壊することで倒す。

 大きな金属音が一帯に響き渡ると、続いて鬨の声。

 門が開かれた音だと理解したからこその鬨の声。


「トール」

 はいはい。

 ゲッコーさんが何を言わんとしているかは分かっている。

 俺たちが会談で馬鹿息子と無意味なやりとりをしている間にも、S級さん達が正面の門だけでなく、左右の山肌に近いとろこにもある門にもC-4 を仕掛けてくれているのは理解している。

 なので今度は派手さは見せず、お手軽に左右に向けるだけで爆発させることも可能というのも見せてやる。

 ただのやらせだから、見せてやるって思考は駄目駄目だが。


 爆発に少し遅れて、離れた位置からも金属の軋む音がしっかりと俺の耳朶にまで届いた。

 これで防御壁の門はがらんどうとなったわけだ。

 凄いね俺の奇跡! ――――とは思えません。

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