PHASE-1205【リアクションが追っつかねえわ!】
「と、とにかく! ここは冷えるから場所を変えるぞ」
「言い方からして邪な事が頭を支配しているようにしか思えないんだけど」
「そういった発想が真っ先に生まれる方が邪な事を期待しているとしか思えないな」
「き、期待なんかしてないわよ!」
「いだい!? 蹴るんじゃないよ!」
「蹴られて当然なことを言うトールが悪い!」
チキショウめ! なんか元気になってんじゃねえか。
キレの良い蹴りを俺の外側広筋に見舞ってくるとはな。
シャルナって弓や魔法に長けているけど、以外と接近戦の方も天性の才能あるんじゃねえのか。
――……あ、あるか……。
初対面の時におもくそ股間を殴られたっけな……。
あの時の痛みを思い出せば、若干だが内股になってしまう。
というか、どいつもこいつも俺の足や股間をなんだと思ってんだよ。サンドバッグじゃねえぞ……。
――。
「準備は整っていますよ」
「で、あるか。ご苦労である」
「なんでトールはそんなに偉そうなんですかね。普通に感謝すればいいだけなのに」
「どの口が言っているのか」
言われたとおりに、皆のためにお湯をしっかりと沸かしてくれているコクリコ。
素直に仕事をこなしてくれた事は感心する。
その横ではギムロンが胡座をかいて酒を飲み続けていた。
横で自分だけ楽しんでいるギムロンに不満を漏らすことなく仕事をこなしていたのは偉いぞコクリコ。
「ベル、ゲッコー、リンもしばらくすれば合流するそうです」
しっかりと報告も出来るなんて素晴らしいぞコクリコ。
位階が高くなればそれに見合うような立ち回りをするように頑張ってくれる。
ギムロンが言うように認識票を出しに使えば御しやすい。
まあ、高すぎると調子に乗るから
「その三人は誰かさんと違って、集団行動時における問題が発生しないように見回ってくれているんだから、優先してお湯を提供してあげるように」
「分かっているので上からな物言いはやめていただきたいですね」
「ギムロンも素直に頑張るコクリコを手伝えよ」
「しとるわい」
どこがだよ。
胡座をかいているだけのようだが、その側ではたき火の上に鍋を置いてお湯を沸かし、白い陶器からなる酒瓶を半分ほど浸けている。
――熱燗を作るのがギムロンにとって手伝いなのかよ。
「ほれ、これ飲めや。一発で体の芯から温もるぞ。弱い酒だから会頭も楽しめるぞ。しかもハチミツ入りだから甘くて美味いぞ~」
「へ~」
この世界だと俺も酒は普通にいただくからな。
ハチミツ入りならホットジュースみたいな感じで楽しめるかも。
興味があったから一杯もらってグイッと飲めば、口の中にハチミツの甘味が広がり、わずかに喉の部分が熱くなる程度のアルコールを感じる。
これに加えて胃の腑から放射状となって体全体にポカポカとする暖かさが広がっていく。
俺は火龍装備だから夜気による寒さは感じないけども、体の芯から広がっていく温かさはまた違った心地よさがある。
「ほれシャルナも」
ギムロンが湯気の上がるぐい呑みを渡そうとするが、
「私は後でいいよ。ここで飲んで酔っちゃうと、トールに何をされるか分かったもんじゃないから……」
「何を突然に変な事を言いやがりますかね!」
とんでもない事を言ってんじゃねえよ。
しかも頬を赤らめて言うな! その恥じらいがリアリティを生み出すだろうが!
「おいおい。変な事をされる予定なんかい?」
ギムロンもニヤニヤとしながら聞かなくていい! と、言おうとしたところで、
「テントに連れ込まれるの」
「ほ~!」
「なんで誤解のある言い方をするの……。完全に俺は冤罪で逮捕される可哀想な人と一緒になってしまうでしょ。そういった軽はずみな発言を真に受けて、聴取でやったよな! と、強要してくる警察だっているんだからな。でもってギムロンもこのやり取りを酒の肴にするんじゃない!」
「……なんという事でしょう……。こ、これはベルに…………風紀委員長に報告しなくては」
「そういった誤報は報告しなくていい。コクリコはしっかりとお湯を沸かすことに傾倒していなさい」
「お湯を沸かせって――会頭――」
「なんだよ」
「――赤ん坊はヤッてすぐに出てくるもんじゃねえぞ」
「ギムロン! お、お前いい加減にしとけよ! シャルナもコクリコも真に受けないように!」
「わ、分かってるよ。冗談って事くらい」
上擦った声の調子からして真に受けてんじゃねえか……。
警戒するように身構えてるし。
それに対して――、
「言われなくても分かっていますよ。甲斐性なしのトールにそんな気概があるわけがない」
「なめんな!」
「では甲斐性があると! 私が湯を沸かしているのは事後のためではないのですがね!」
「十四歳がそんな事を言うんじゃありません!」
もういいよ……。
頭がグワングワンしてくるから……。
何なの。童貞をいじって何が楽しいんだよ……。
なのでシャルナもさっき以上に警戒しないように……。
俺がそんな男じゃないことくらい分かって……、以前、温泉で覗こうとしたことも有るし、おピンク街の展開には対立する立場として俺とぶつかってきたな。
俺のエロさにはシャルナは敏感になるわけだ……。
の、割には素直についてきてくれているんだから、信頼はされていると信じたいところだな。
「とにかく――だ。渡したい物があるから入れよ」
「何を渡したいのかの~。ナニってか」
「よいしょい!」
「ぐむん!?」
酔っ払いの下品なドワーフには修正とばかりに拳骨一発。
いや~俺も強くなったもんだよ。
どっしりとした樽型ボディーのギムロンを一撃でうずくませる事が出来るようになったんだからな。
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