PHASE-1206【小朝氏のヤツっぽい】
――余計な混乱を生み出す二人を放置したまま、俺たちはテントへと入る。
「ん~とね……。まず、身構えるのをやめようか……」
どんだけ俺は信用されていないんだよ……。
でもってどんだけ初心なんだよ。
千九百年以上の時を過ごしているってのによ……。
というか身構えつつも俺の言うとおりにテントに入ってくるってことは、ワンチャンあるのかと変な期待感が芽生えてしまうイケない俺氏。
「トールの鼻の穴が大きくなってるみたいだけど……」
「んなこたあない」
いかんな。エロい心に支配されそうになってしまった。
「さあ、どうぞどうぞ」
テントの中心へと誘導すれば素直に足を進める辺り、以外とチョロかったりするのかなと。
拝み倒せば意外とOKしてくれるのではと思ってしまう、ここでもイケない俺氏。
「――で、どういった訳でここに誘ったの?」
髪をクルクルと指でいじくる仕草が魅力的ですね。
照れている中でのその仕草はグッときますな。
でも、非常に残念ですが、エロいイベントなど起きませんよ。
テントの入り口部分を見れば、影がしっかりと映っている。
数は――二つ。
コクリコとギムロンである。
こちらのやり取りをしっかりと耳に入れようとしてやがる。
野次馬どもめ! ――いや、この場合は出歯亀ってのが正しいのかな? 一人は女だけど。
「とりあえずモジモジしてないで座れよ」
床几を用意すれば素直に座ってくれる。
「ここに誘った理由を早く教えてほしいんだけど」
「おう」
決してふしだらな理由でここへと誘ったのではないということを証明して上げよう。
その為にとばかりに布に包まれたモノを両手でしっかりと持ち、シャルナへとその両手を伸ばす。
「え、なにこれ?」
「お前のもんだよ」
「……物で私を釣るって事かな? で、油断させて……」
「ちがうわい! どんだけ俺が邪な気持ちに支配された存在だと思ってんだよ!」
まあ、エロエロな男ではあるけども。
「これはルミナングスさんから俺が預かってたんだよ」
「――父様から?」
「そうだ。安心しろ、中身は見ていないから。無断で見るという不作法はしていないから」
布に巻かれた中身の長さと、握った時に伝わってくる形状などからなんとなく中身は分かってしまうけども。
俺から手渡されるソレをシャルナもしっかりと両手で受け取れば――、
「――弓だね」
「俺もそう思う」
反りのある長くて細い棒というのが布の中から伝わってくるからね。
何よりエルフから渡されたからな。
形状と種族から連想できるのは弓以外に考えられない。
――シャルナが巻かれた布を丁寧にスルリと取れば――、
「うわぁぁぁ……」
「ほう……」
シャルナは感嘆の声を漏らし、俺は良い物なのかな? という意味合いで声を漏らす。
感動しているシャルナには申し訳ないが、見た感じ普通の木から削り作られた、弦の張っていない有り触れたロングボウなんだよね。
――だが、普通の弓じゃないんだろうな。
以前にもエリシュタルトにて目にしたことがある。
ルミナングスさんが所有し、そして手渡されて見させてももらった。
「これってミスティルテインで出来ているのかな?」
「そうだよ」
やっぱりそうか。
てことは、これはルミナングスさんが使用していた物を娘に――、
「いや、違うな。これってルミナングスさんが使用していたのとは違う」
「そうだね。これは新しく作られた弓だね」
「だよね」
明らかに形状が違うからな。
「両端が独特だよな」
「
「そうなのね」
その上下にある
「どんな理由で溝があるんだろうな」
「多分だけど」
弦の張られていない弓を手にするシャルナが力を込めるように握ってみせれば、
「おおっ!」
末弭と本弭と呼ばれる箇所に出来た溝部分から、青白い輝きを発する刃が現れる。
つまりは――ミスリルの刃。
刃渡りは末弭、本弭ともに二十センチくらいだろう。
「そうか。弭槍の弭って弓の各部名称なんだな。戦国時代を題材にした漫画の中で、騎馬武者が騎射で敵を射抜きつつ、接近時になれば弓についた穂先で敵を倒すという粋な武器というポジションだった記憶がある」
俺が読んだ漫画では、末弭に穂先を取り付けるものだったけど、こっちのはフォールディングナイフの要領で収納されている。
しかもシャルナの力に反応して出し入れが可能なギミックのようだ。
ギミックはマナによるものだろう。
確かミスティルテインはマナを吸収するパルンストックって巨木の宿り木で、そのマナを吸収するって木だったな。
それを利用してのギミックなんだろうね。
「それにしても格好いいな。上下から刃が現れるとか浪漫だ。三匹が斬る! の、たこの仕込み槍みたいだ」
中二心をくすぐるあの両槍の仕込み槍は、俺が視聴してきた時代劇に登場する武器の中でも、上位に入るほど好きな武器だ。
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