PHASE-1207【いい笑顔だよ】

「センゴクマンガだったり、三匹が何かは分からないけど、これを接近時に使用するとなると相手は限定されるかな」


「刃渡りが短刀サイズとなると確かに限られるよな」

 ミスリルの刃とはいえ刃の長さがその程度だと、人間サイズやそれ以下の小型な相手には十分に通用するだろうが、この異世界にはトロールやオーガなんかの大型で自己再生を有する種族もいるからな。

 急所にしっかりとした一撃が入らない限り、短刀サイズの刃渡りでは大ダメージには繋がらない。


 大型を相手にするとなれば、矢を放ちつつ、接近されたらこれで迎撃――というよりは牽制しながら距離を取って、再度の矢による遠距離へと繋げるコンボってのがセオリーになりそうだな。


「それに格好良くはあるけど、弓だから強度が――」


「その心配はないよ」


「ああ、だったな」

 ミスティルテインだからな。そこいらの金属よりも頑丈な木材だったな。

 エルフの国の門扉にも使用されるくらいだし。

 利器による攻撃に対して十分に防ぐ事も可能な強度だろうが、槍として使用するとなると、弓特有の撓りによって刺突の威力は落ちると思われる。

 しかしそこはルミナングスさん。しっかりとその部分を考慮しているからこそ、ミスリルの刃部分は反りのある片刃の作りにしているんだろう。

 突くより斬る事に特化させている。

 デザイン的にも俺の浪漫にぶっささっているから正直、欲しい。 

 

 銃もあればマスリリースも習得したから弓を使用するって機会がないけども、やはり勇者はよろずに通じないといけないだろうからな。

 王都に戻ったら二刀流だけでなく、弓も覚えよう。

 

 成長のために励もうと誓っている中で、


「これを父様が私に――」


「よかったな」


「ミスティルテインからなる弓は、王族に認められた者にしか与えられないんだけどね。私には分不相応だと思うんだけど」

 お、謙虚だね。

 シャルナの実力なら誰も異を唱えないだろうけどな。


「あれじゃないか。王の師であり勇者である俺と行動しているからな。最前線で活躍する者には最高の装備をってことだろう。ガグ戦での活躍も大きかったからその報酬でもあるんだろうし」


「だとしても過ぎた物だね」


「シャルナがそう思っていようとも、その弓に値するだけの者だと、王と父親が判断したから与えられるんだよ。本当は国でちゃんと渡したかったはずだぞ」


「私が気落ちしていたから渡せなかったわけだ……」


「お、おお……。多分な……」

 はっきりと――そうだよ。と、無遠慮には言えない声音へと変わるシャルナ。


「私なんかに……ね……」

 ――……暗いよ。

 さっきは俺に蹴りを入れるくらいに元気になってたのに。

 やはりこの弓を渡すのは時期尚早だったのかな。

 ――……いや、こういった膿を出すのは早い方がいい。

 王都に戻ってから渡しても同じようなリアクションだっただろうし、空元気が長引く分、立ち直りも遅くなる。

 しかし、ルミナングスさんも俺たちが出立する時、ルーシャンナルさんだけに言葉を伝えるんじゃなくて、シャルナにもしっかりと同じような事を言ってほし――――!?


「ああ! そういう事ね!」


「突然なに!?」


「ルミナングスさんが出立の時、ルーシャンナルさんに言っていた事を思い出してな。自身の今後を考えるのは、この世界で成すべき事を成してからとか言ってたんだよな。エルフは寿命だけは他の種族よりも遙かに長いから、それを利用してしっかりと自分と向き合えって。でも今は勇者殿を支えよって言ってたんだよ」


「そんな事を言ってたんだ」


「ああ、でもあれってルーシャンナルさんだけに言ったわけじゃないのかもな」


「私にも言ってたって事? なら直接――」


「じゃなくて。自分自身にも戒めとして言ってたんじゃないのかな。シャルナ同様にデミタスの変化に気付くことが出来なかった不甲斐なさを感じて、ルーシャンナルさんに言い聞かせるようにしつつも自分自身にも述べていた。――って完全に俺の憶測でしかないけどさ」

 偽者を見抜けなかったことをいつまでも引きずって、世界の情勢に目を向けないのは愚か。

 そんなことに考えを傾けている暇はまだない。

 傾倒するにしてもそれは平和な世が訪れた後に向き合えばいい。エルフは寿命が長いのだから。

 ――と、ルミナングスさん本人も自分に言い聞かせていたんだろう。

 というか、そう思いたいし、ルミナングスさんならそう思うタイプだと思う。


「なんたって責任感が強い方だからな」


「だからいつも胃の部分を擦るんだろうけどね」


「その辺は俺と同士なんだよな。胃が穴ぼこエメンタールチーズになるかもしれない同士だから」


「かもね」


「お! トールに責任感? っては言わないんだな」


「言わないよ。だってトールは難敵相手にはしっかりと先頭に立って対応するだけの責任感を持っているからね」


「お、そうか」

 ストレートに評価されると照れくさいけど、嬉しいね。


「そっか。お父様が――ね」

 ――顔を伏せるシャルナ。

 だが、今の発言の声音には先ほどまでの暗さはなかった。

 なので伏せた顔が再び起こされる時には――、


「そっか、そっか! じゃあ私も父様やルーシャンナルを見習わないといけないよね!」

 はたして正にとばかりに表情は明るくなっている。

 

 ここまでに見せていた空元気からなる作り笑顔を顔に貼り付けるといったものではなく、快活による笑み。

 久しく見ていなかったシャルナらしい笑みを見せてくれる。

 憑きものが取れたかのような明るさを取り戻してくれていた。

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