PHASE-1208【誰が小僧だ!】
「向き合うのは全てを終わらせてからにするよ。その為にはこの弓に恥じないように励まないといけないね」
「本来は王から賜る弓なんだろうけどな。ルミナングスさんから俺を介してのもので悪いな」
「別に気にしないよ。そもそもトールは現王の師匠だからね。むしろ光栄だと思う事にするよ」
「お、そうか!」
「嘘だけどね」
「なにおう!」
「ハハハハ――――」
まったく。
まあ、いつものように元気なシャルナに立ち戻ってくれたから良かったけどな。
「トール」
「なんだ」
笑顔から真面目な顔になってるけど。
「――ありがとね」
からの即、笑顔。
「――お、おう」
やべえな。流石はエルフだ。
屈託のない笑みを向けられれば、こっちの鼓動は早鐘を打つ。
ただ打つのじゃなくて、伝説のドラマーが打ってんのかとばかりに激しくもありスピーディーに叩かれている気分だ。
何となく良い雰囲気にもなっているような気もしないではないが……、
――チラリと外側を見れば、聞き耳を立てていたのがさっき以上にテントに張り付いている……。
夏の山で白い布にライトを当てて虫を集める手法が頭内に浮かんだよ。
二人が原因で雰囲気は台無しってところだな。シャルナもその二人の影を目にして苦笑してるし。
「さてさて、このまま居続けると外の二人を無視して私に襲いかかってくるかもしれないからお邪魔しようかな」
「なぬ!?」
「あ、やっぱり考えてたのかな~」
「この遠坂 亨、その様な事は一切考えてなどおらぬ! 心はいつもシベリアの真珠ことバイカル湖のように透き通っている!」
――考えてはいない。芽生えそうになっただけだ! と、心の中で継がせていただく。
「透き通っているとは思ってあげないけど、私を元気づけようと動いてくれたトールは最高に格好良かったって評価してあげる」
「なんだその上からな言い様は。いい女気取りですか」
実際いい女ですけども。
――――!?
「え!? なに!? いま最高に格好良かったって言ったの!」
「そこで聞き返すのが格好悪いところなんだろうけどね~」
屈託のないものから悪戯じみた笑みへと変わるシャルナ。
おちょくられているのか、どうなのか。
だが俺の人生において始めて女性――しかも凄い美人から面と向かって格好いい発言をもらうことが出来るとはね。
異世界最高! って思いが頭の中を支配したよ。
「発言に勘違いしてトールが狼になるかもだから、やっぱり早々に退散しよ~っと」
と言いつつ、俺へと背中を向けるシャルナ。
おちょくるつもりだったのかもしれないが、最高に格好いい発言を口にした事が恥ずかしかったようで、隠すことの出来ない笹の葉のような長い耳が真っ赤に染まっていた。
――足早にテントから出て行くシャルナを見送るように俺もテントから出る。
出た矢先に――、
「なんじゃい! もっとガッといかんかい! 中々にいい感じだったようなのにの! おもしろくないの! 股間に陽根ついとらんのか情けない!」
攻めに転じなかった俺に、酒気をまき散らしながら不満を漏らすギムロンの姿は正に悪酔いした鬱陶しいおっさん。
「恥ずかしげもなくテントに耳をつけて中の話を聞いてたヤツに言われたくねえよ」
お前等がいたからってのも手を出せなかった理由なんだよ。
――……まあ、そもそもヘタレな俺が手を出すなんて事は出来ないけども……。
「まったくトールはとんだすけこましですよ。我らがギルドの要である知恵者たちは人誑しの才があるなどと言っているようですが、すけこましの間違いですね!」
「俺のどこがすけこましなんですかねコクリコさん」
元気づけてお礼を言われて出て行かれただけなのに、なんですけこまし扱いなんだよ!
最高に格好いい発言くらいですけこましなんて称号が手に入るなら、陽キャと呼ばれる俺と対極に立つ者たちは、全てがすけこましの称号を得ることになるっての!
「なんともおもしろくないですね!」
「何でギムロンと同じような言い様なんだよ。十四歳がおませな事を考えるな。それとも何か? 俺に攻めに転じてほしかったのか?」
「そんなわけないでしょう!」
「あいた! なんで蹴るんだよ!」
「ふん! お湯の管理は自分でしてくださいね!」
――……まったく。何が気に入らないのやら……。
蹴るだけ蹴って立ち去るとは……。
「最後まで全うしないとはな。これだと位階のアップは考え直さないといけないな」
「ほ~」
「どうしたよ?」
「いやいや。会頭もまだまだ小僧だと思っただけよ」
「なにぃ!」
そら二百年以上の歳を重ねているドワーフから見たら小僧だろうよ!
小僧の部分の言い方が馬鹿にされた語調だったからイラッとしたぞ!
「色事が好きそうなのに、その手前は見えとらん。かぁぁぁぁ――情けない!」
よし! エルフの国での続きをやろうか。今度は丸太でボコボコにしてやる!
「だからこそ春の到来はまだまだ遠いんだよ」
「そうね~」
「藪から棒に二人して」
見回りを終えたゲッコーさんとリンが俺を残念な感じで見てくる。
「確かにこの寒さはまだまだ続くでしょう。ですがトールと季節に何の因果関係があるのかが分かりませんね」
と、二人に続くのはベル。
ベルの言っている事は至極当然と思っているのだが――。どうやらそう思っているのは俺だけのようであり、ゲッコーさん、リン、ギムロンは顔を見合い――、
「「「やれやれ」」」「だぜ」「だわ」「じゃの」と、語末はシンクロさせなかったが、肩を竦めて首を左右に振るという動作はしっかりと揃え、且つ半眼で俺を見てくる。
三人の発言と動作に対し――、
「「?」」
俺とベルは疑問符を浮かべて見合うという所作で返す。
答えを求めようとしたのに、三人は俺たちに背を向けての解散。
「なんなんだよ」
「さあな」
「あ、コクリコがお湯を沸かしてくれているからな」
「それは助かる」
といった会話をベルとやり取りしながら夜は更けていった――。
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