PHASE-619【アンデッドの利便性】

「この螺旋階段、俺たちが下ってきた階段とは別に上に続いているな。直通でジオフロントに続いてるのか?」


「もちろん」

 だよな。大規模な避難が考えられた時、下ってきた階段だと狭いし、力の間から上に続く階段も大勢が一気に使用出来る階段幅はないからな。

 ――俺たちが使用してきた各階層を繋ぐ階段は、責任者のポジションの者達が使用する予定のものだそうだ。

 力の間の上の部屋も、避難民の中の代表者に使用してもらう為の部屋との事。


「でもここの責任者はリンだろ」


「まあ、そうなんだけど。いきなりアンデッドの指示に従うのは難しいでしょうからね。それならここまで避難誘導できた有能な代表者に、人々の統率をやってもらったほうが円滑でしょう」

 代わりにリンは地下施設の防衛に専念するって事だった。


「ちゃんと考えているみたいだけど、それなら避難をスムーズにする為に、この地の代表である侯爵にくらい教えていてもいいんじゃないの?」


「低位アンデッドに体を乗っ取られていた存在に?」

 意地悪そうに口端を上げるリン。

 それを言われると何も言い返せない。

 秘匿にしておくから魔王軍にも何をしているか察知されなくて済むわけだ。


「なんですか。やはり結構いいアンデッドですね」


「なに言ってんの小さいお姉ちゃん。マスターは善人だよ」


「近づいてこないで結構。そもそも私を馬鹿にする者達が善人とか」


「本当に善人だもん!」

 頬を膨らませるオムニガルに対して、小馬鹿にしたような笑みで挑んでいるコクリコ。

 これまで馬鹿にされた事に対する意趣返しとばかりに、勝者の立場を全力利用してマウントをとっている。


「勝ちを得て、権力を得ても、相手の誇りまでは奪ってはならない。それが真の勝者だ」


「金言です」

 チート二名によるコクリコへの諫め。

 これによりコクリコはつまらなそうだが押し黙る。

 うん、このパターン。いつものコクリコだ。

 結局、二人によって諫められるまでがコクリコだからな。

 でもって、


「――フッ」

 八つ当たりで俺に蹴りを見舞ってくるまでがコクリコだ。

 喰らってやったところで、今の俺にはダメージなどない。

 いくつもの戦いをくぐり抜けた俺の体は、鍛え抜かれている。

 大腿四頭筋で受けた一撃に対して、鼻で笑って返してやる。


 ――…………。


「Enjoy the Final Battle!」

 遅れて来る鈍痛にイラッとした。

 ベルみたいに内部からズンズンと痛みを響かせる蹴りが出来るようになってきたじゃねえか! そうだよな。俺が鍛え抜かれているなら、同じ戦いの場にいたコクリコだって鍛えられているよな!

 正式に魔闘家になってみるかこのまな板!

 ――……結局はベルに拳骨を二人仲良くもらって終わるというパターンで終結ですけども。

 ここ最近は怒られる回数も少なくなってきてたのに。

 コクリコと絡むと怒られる確率が高くなるな……。


 

 ――――二千ほどのアンデッドを召喚できるとリンが言っていたが、それが真実だというのが分かった。

 長い螺旋階段を下っていく間に、多くのスケルトンが作業に従事しているのを目にする。

 

「よく頑張るよ」


「スケルトンクラスは命令を出せば、言われた事を延々とやってくれるのよ」

 とんでもないブラック企業だな……。

 アンデッドでも組合とか作ってもいいレベルだろう。

 文句も言わず、疲労も無いから、昼夜問わずずっと動き続けるスケルトン達。

 そのおかげで、この山の中はここまでの発展を遂げたわけだ。

 

 ――――時折、踊り場で休息をしつつ、麓に位置する階層まで到着。

 雪に足を取られる事なく雪山を下山できるというお手軽さは有りがたかった。


「これなら避難時でも疲労の蓄積が少なくてすむな」


「そうでしょうとも」


「それにこの光景よ――――」

 麓に位置する山の中には、壁に守られた町がある。

 麓部分より山肌を突破し、進入してまず目にするのは城壁のある光景。

 攻め手側の士気をくじくだけのインパクトはある。


 天領の南に位置する要塞トールハンマーもこれに近いものになっていくのだろうか。

 流石に山の中をくり抜くような作業は出来ないだろうけど、坑道を張り巡らせ、山肌に砦群を築いた山城化も考えていると先生は言ってたな。

 これだけの規模の工事が出来るんだからな。リンには是非ともアドバイザーとして要塞建設に携わってほしいところ。

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