PHASE-618【山の中はほぼ空洞】

 廃城の下にある山の中では、現状でも十分に人々が生活を行うだけのものは造り上げているそうだ。

 最終的には廃城も人々の居住区にするつもりだそうだけども、そちらはまだ手つかずとの事。


「さて、じゃあ敗北者として貴方たちに従いましょうかね」


「……マスター……?」


「あの子も目覚めたみたいだし」


「……もしかして私達の負け」


「そう負け」


「そっか~」

 もっと悔しがると思っていたけども、幼女のポルターガイストであるオムニガルは存外あっけらかんとしている。


「まさかあんな魔法でやられるとは思わなかったよ」

 と、悪気はないんだろうけど、一々コクリコをイラッとさせるのが上手いようで、言われた方のワンドの貴石が怒りの赤に輝く。


「年上なんだから堪える事も覚えろ」


「もしかしたらあっちの方が刻んできた時は長いかも知れませんけどね」

 確かにな。ゴーストだから年齢が固定されているだろうし、実際はコクリコより年上だったりするかもな。というか、リンと行動しているからかなりの年上だろう。

 戦いが終われば敵対する意思はないとばかりに、オムニガルは俺たちに対してフレンドリーだ。

 なのでシャルナに向かって小さく頷く。理解してくれたのかバインドを解除。


「ありがと♪」

 シャルナにお礼を述べて、俺が許可したと分かったようでくっついてくる。

 ゴーストとはいえ、玉肌の美少女が密着してくるのは悪い気はしない。

 といっても、俺はロリコンではないけどね。


「よし帰るか」

 力の間に下りてきた階段へと向かおうとすれば、


「こっち」

 と、リンが逆方向を指さすと、フィンガースナップを一つ。リンが最初に現れた時のように、柱がせり上がってくる。

 窪んだところには下へと続く階段が見えた。


「そっか、麓の方から工事を進めてたんだよな」


「雪山下山はしなくていいようだな」

 と言って、ゲッコーさんが煙草を咥えてから火をつけ、紫煙を燻らせれば、


「それ臭いから禁止。さっさと消して」


「おう……」

 リンからの禁煙発言。


「助かりますよ。それ煙たいですからね」


「臭いよね~」


「実際のところ、他人の体にも悪影響だからな」

 パーティーメンバーの女性陣からも散々に言われる。

 普段、あんまり口にする事はなかったけども、皆、煙草の煙には不満を抱いていたようで、リンの発言に便乗するようにして一気に不満をぶちまける。

 携帯灰皿にそそくさと入れると、静かにポシェットにしまうゲッコーさんの顔には哀愁が漂っていた。

 吸う場所が限られてきているご時世ですからね。

 まさか異世界でも喫煙者が追いやられる光景を目にするとはね。


「体に悪いですから、いっそ禁煙したらどうです」


「愚問だなトール。俺の肺は酸素より煙を欲している体になっているんだ」


「そんな事を言い続けてたら、煙草だけでなく、ゲッコーさん自身も女性陣に煙たがられる存在になりますよ」


「…………酷いじゃないか……」



 ――――落ち込んでいるゲッコーさんを最後尾に、柱の階段を下り終えれば――――、


「ほう! これは見事な」

 柱の階段を下り終えてお目にかかるのは、山の中がくり抜かれた光景。

 壁に沿ってなだらかに続く螺旋階段の階段幅は広く、大人が横に十人並んで歩いたとして余裕がある。

 要所要所には踊り場があり、そこでは階段を利用する者達がゆっくりと横になって休める規模でもある。

 というよりそれを目的としているのか、踊り場には座れるように、アール壁に沿った椅子も設けてあり、その椅子に横になる事も出来るくらいの大きさがある。

 加えて竈まである事に驚きだ。

 多くの避難者を受け入れるという事も想定しているからか、ジオフロントに到着する間に、各踊り場でも食事と休息が取れるようにしているという。

 山をくり抜いての大事業は、映画なんかでアメリカ大統領が核攻撃なんかの時に、避難兼指揮所として使用する地下施設を彷彿させる。

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