PHASE-258【最強の庇護下に入ってもらいます】
「続きをどうぞ」
「ああ、そうだなコクリコ」
おっさんの落ち込みで話が脱線してしまった。
「王都では働き手を募集している。俺のギルドである雷帝の戦槌でも人材を欲している」
「では!」
族長が強い足取りで俺に歩み寄ってくる。側で支えてくれるコボルト達や杖の補助を必要としないくらいに、強い足取りだ。
希望を耳にして王様みたいに覇気が体に漲ってきたようだ。
俺が次ぎに発する発言を今か今かと待つように、族長だけでなく、補助をしていたコボルトや、他のコボルト達も傾注の姿。
犬のような耳をピンと立てて、瞳と共に俺へと向けてくる。
「王都の復興は城壁、家屋に始まって、農耕に畜産。更にはそこから生まれる副産物からの生産と多岐にわたる。とくに最近は王都からメンバーが各地に派遣されているから、ここいらで働き手を増やしたい。働き手には安定した食事も提供だ。稗粥が今は主食。他にも新鮮な野菜に魚の乾物だって王都では食べられるぞ。空腹とはおさらばだ」
喋々と発せば、俺を注視していたコボルト達の瞳は、開けた展望への期待の色に染まり、伏していた体が力強く立ち上がる。
実際はまだまだ食料はかつかつだが、それでもここにいる面子を養えるくらいの蓄えは十分にある。
消費よりも今は働き手の獲得が大事だ。
畜産が十分となれば屠畜。そして皮から羊皮紙の生産。骨や腱を使用した複合弓なんかの生産と拡大していく。
人材は多い方がいい。
「ですが、王都の方々は同胞のことを受け入れてくれるでしょうか? リオスはともかく、王都で亜人となれば……」
「いやいや、ドワーフにエルフもいるよ。だから問題ないよ」
「その二種属は古来より人間に協力しておりましたし、見た目もさほど変わりませんから……」
族長の不安はしかたない。
ちょっと前まで王都は、オークなんかの亜人の遊び場になっていたからな。人間と姿が違う亜人となれば、抵抗も見られるかもしれない。
「大丈夫!」
胸を張って俺は言う。
コボルト達の不安を払拭させるために堂々と言い切る。
見渡して俺と視線が合うのは子コボルト達だ。
まん丸お目々の愛らしさ。
俺はそれで確信する。
「王都に迎えいれるコボルト達には、最強の存在が後ろ盾になってくれると思う」
「本当ですか!」
「間違いないよ。もしそうならなくても俺が責任を持つ。だから安心して欲しい」
他種族間での衝突なんて、こんなどん詰まりな状況でさせてやる余裕はない。
偏見を持つ者こそが俺たちの敵って内容を演説みたいに拳を作り、高らかに掲げながら述べる俺。
――――結果、気持ちのいいくらいの喝采を浴びることが出来た。
勘違いはしないと誓ってはいるが、これは勘違いをしてしまいそうだ。
総統閣下とか呼ばれたら。はい! と、素直に応えそうな俺がいる。
ま、俺が間違った方向に進もうものなら、ベルの蹴りが見舞われるし、ゲッコーさんがいつの間にか背後に立つという強制イベントが発生するので、勘違いに陥ることがないのが救いだろう。
手本になる格好いい大人が側にいる幸せ。
「あ、そうそう。可能ならスリングショットは提供して欲しいな。もちろん返却はするから」
「お役に立てるのでしたら。これから我々、南から来た者たちはお世話になるのですから」
言えばコルレオンさんは俺にスリングショットを手渡してくれた。
王都についてからでよかったんだけど。どうやら当人は俺に譲渡するつもりのようだ。
ちゃんと返すけどね。
「よっしゃ! じゃあ、この穴蔵から帰ろうぜ!!」
嬉々と大音声の俺。空洞だから声がよく反響した。
俺の声をかき消すように、わっとコボルト達が喜びの声を上げて続く。
喜ばしいのはこちらもだ。
この空洞だけでなく、トロール達が利用する通路まで掘ったのは、ここにいるコボルト達だ。
小柄だけど、これだけの事をやってのける作業能力の高さは異常だ。
ひたむきで実直。黙々と目の前の仕事をこなしてくれる人材は宝だよ。
魔王軍に奴隷として扱われていただろうが、俺たちの元に来てくれる以上、しっかりとした食事と休日を堪能できる生活を営んでもらわないとね。
そうすることで、ここにで強いられていた時よりも素晴らしい仕事をこなしてくれるだろう。
「本当にありがとうございます」
締めとばかりに族長が典雅な一礼。それに続いて他のコボルト達も大小問わずに頭を下げてくる。
眼前の感謝を受けると同時に、俺の右手は前へと出る。
なぜかって――――、
「礼にはおよびません。
――――毎度の事ながら俺より前に立ち、感謝を受けようとするまな板がいるからね。
前に伸ばした右手でコクリコのフードを引っ張って無理矢理に下がらせれば、強制的にコクリコの頭が
対して俺は頭を左右に動かす。
普段のコキコキという小気味のいい音ではない。ゴキゴキと強い意志が籠もった音だ。
――――この穴蔵から出るのは、もう少し先になりそうだな――――。
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