PHASE-1102【成仏を願う】
「でも、公爵が他国の氏族を――」
「外交的に問題が起きたら証人になってくれ」
作り笑いで返す。
「分かった」
と、短いシャルナの返事。作り笑いの俺とは違って真剣な表情だった。
頼りになる顔だ。
「さて――」
正直、見た目だけで判断するのはよろしくないんだろうが、気は楽である。
人間と似た姿のエルフより、こういった怪物の姿をしてくれている方が斬るのに抵抗が薄れるからな。
そういった思考もエゴではあるが、今はそのエゴに感謝したいところ。
罪悪感ってのが薄れるんだからな。
それにここでポルパロングだけを特別視すれば、いままでの戦いによって奪ってきた命に対して冒涜になる。
「決断は早い方がいいわよ」
「分かってる」
なんだかんだで躊躇ってのもあるんだろうな。
リンが背中を押してくれたような気がする。
「私はただこの国のためにぃぃぃぃぃぃイィィイイィィッ!」
狂乱状態のポルパロング。
俺と目が合えば即ターゲットとばかりに拳を放ってくる。
狂乱状態故か魔法という選択はないようだ。
回復どころか攻撃魔法も使用しない。三つの腕を正面から繰り出してくるだけ。
三撃を躱しつつ、跳躍。
「――悪いな」
垂直に裂けた口が特徴的だった頭部。首に向かって残火を横一文字に走らせる。
――――いつも思うことだけど、残火の切れ味は有り難い。
肉と骨の抵抗を感じる事なく斬れるのは精神的に負担が軽い。
大きな頭部が胴体と離れれば、殴りかかった勢いのままに胴体は前のめりで床へと倒れ――動かなくなる。
「余裕ではあったわね」
「メタモルエナジーって力に振り回されてたし、最後の方は狂乱してたしな」
残心から残火を鞘に収めつつ、リンに返す俺の声は自分でも分かるくらいにドライだった。
命を奪う事に、本当――慣れてきたよな……。
――……慣れてはきたけども……。
「頼むからそんな目で見ないでくれよ……」
胴体とは別に転がるガグとなったポルパロングの大きな目はこちらを恨めしそうに見ているように思えた。
両手を合わせて祈りを捧げるしか出来ないが、成仏してくれることを願う。
「フル・ギルから解放されたんだから感謝はしているはずよ」
「本当か?」
「ええ。間違いなく」
「死者を使役するネクロマンサー様に言われると少しは気が楽になるな」
「それでどうするのかしら。このまま眠らせる?」
「もちろん。リンなら使役も可能だろうけど、操られて最後を迎えたのに死後も同じように扱われたらたまんねえだろうからな。生前に同意してくれているならいいけど」
「そうね。それに使役しても狂乱の状態は維持されているしね」
フル・ギルの効果はアンデッド化になったとしても継続されるという。流石は大魔法といったところか。
術者に解かせるか。術者を倒すか。術者を上回った呪解が使用できるか。
この三つでしか対応できないということだった。
「じゃあ――」
「せめて荼毘に付しましょう。オーバーロードインフェルノ」
「嘘でしょ……」
驚きのシャルナの横でそれを気にせずにリンは魔法を発動。
動かなくなったポルパロングの遺体にチリチリと黒い火が灯る。
マッチで起こした火程度だったものが瞬く間に胴体と頭部を覆えば、漆黒の炎によってジリジリと燃やされていく。
驚くシャルナに対して、リンは満足はしていないと返していた。
本来なら包まれた時点で灰燼とする魔法だそうだが、魔法耐性のあるガグの体毛が原因なのか、燃やすのに時間を要しているという。
まあそれでも、一分ほどで灰燼と帰した。
この黒炎――シャルナの説明ではオムニガルとリンが使用するダークフレイムピラー同様に闇魔法なのだという。
四大元素からなる魔法が卓抜になれば、四大元素をかけ合わせることで使用可能となる最高位の魔法――聖光と闇。
しかも目の前のは大魔法であり、各属性の大魔法と比べても上位に位置するそうだ。
「にしても大魔法の中でも上位に入るオーバーロードインフェルノってのを
「それは貴男もでしょ」
まあ俺のは前魔王であるリズベッドありきの大魔法だけどな。
だが――、そんな凄いリンでもフル・ギルを解くことが出来なかった。
やばい実力を持った術者がこの国にまだ暗躍しているって事なんだよな。
それを思えば気は重いが、ゆっくりも出来ない。
「さあ、なんとか次へと繋げることは出来た――と信じたい」
「そうだね。カゲストのとこに行こう。行けば進展もあるよ。正直、ポルパロングよりも日和見で力のある者に迎合ばかりしてたコイツが私は一番嫌いだったから」
弦を弾いて小気味のいい音を奏でるも、音とは違いシャルナの声は不快そのもの。
弦を弾いたのは決意の表れだったのかな。
次は俺に斬らせず、自分が射るっていう思いを感じさせる。
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