PHASE-1101【あんなのが医薬担当なんだな】
「でも合点もいった」
だからポルパロングは戦いを止めないわけだ。
エリスから蛇さんを罵った時はまるで別人のようだったといった内容の話を聞かされたけど、あながち間違っていなかったんだな。
もしかしたらその時から本人の意思とはまた違ったモノが心底にはあったのかもしれない。
「じゃあどうするの? コイツの命を奪う事になるのかな……」
やはり氏族の命を奪うって事には抵抗を見せるシャルナ。当然のリアクションだ。
それに犯人を特定できないまま命を奪うとなればその後が続かない。
せめて――、
「行動不能に出来る方法は?」
「あるけども――相手はエルフ。しかもガグって姿になってから魔法の威力も魔法耐性も上がっているから長時間の拘束は難しいかもね」
本人が嫌がってもフル・ギルなるチャーム系の大魔法によって強制的に戦わされる。
しかも戦いに傾倒して回復をしようとしないから、結局はダメージの蓄積で死に至るだろう。
こっちが回復してやれば問題はないだろうが、フル・ギルが解除できない以上はただの延命措置でしかなし、なにより攻撃を仕掛けてくる相手を回復させながら立ち回るなんてリスクが大きすぎる。
「教えなさい! 貴男を操っているのは誰」
半狂乱状態となっているが、シャルナの問いにあの御方、あの御方と口にする。
が、それ以外は述べない。
というか――、
「もしかして、あの御方ってのがどの方なのか知らない?」
ガグから一定の距離を取りつつリンに問う。
「多分そうね。フル・ギルの絶対支配に置かれた状態だから知っていても術者がそれを語るなと言えば語らなくなるし、本人が気付く前にチャームをかけられていれば、かけられている事すら分からない。大体の術者は解除されることも考えて後者で発動するけど――あの御方とか発言するから少しは術者と接触しているのが分かる――というのが分かるくらいね」
接触していてもこれじゃあな……。術者まで辿り着くのは現状だと難しいか。
他になにかしらの問いかけとなると――、
「あの御方ってのがそのメタモルエナジーってのを直接あんたに渡したのか?」
黒幕の事を間接的にも聞き出せればいいんだけども。
無理だろうな――。
「違う!」
おっと、意外な答えだ。知らないではなく、否定。
「じゃあ、誰だ」
――……。
「ぬぅぁぁぁぁぁあ!」
「叫んで暴れないで意地を見せろ! ハイエルフで氏族様なんだろうが。このままだと恰好の悪いことだぞ」
「……ぁぁああ! カ、カゲスト!!」
「……誰だよ?」
初めて聞く名前――だよね?
シャルナを見れば、
「然り、然りのヤツ」
「ああ、あのイエスマンか」
なんだよあのイエスマン。顔色ばかりを窺って行動するだけのヘタレかと思っていたら、こういった事をするヤツでもあるんだな。
でも――、
「あのイエスマンがあんな薬を用意できるのかな?」
「なくはない。カゲスト・クリミネアン。クリミネアン家は医薬品を担当している氏族だから」
「そうか――」
あいつあんなんで医薬品開発や製造の責任者なんだな。
なんとも信じられないポジションにいるようだけども、テレリやウーマンヤールが薬を手に入れるのに苦労しているというのは、サルタナやハウルーシ君の行動で分かっている。
あの日和見イエスマンの事だからな、薬を下位階級に出し渋っているんだろう。
そう考えるとあいつが医薬担当だというのも悪い意味で頷ける。
「ならそのカゲストを捕まえて聞き出すか」
「その可能性にかけるしかないわね。目の前と同じなら意味はないでしょうけど」
リンは期待は出来ないと考えているようだ。
ポルパロングがフル・ギルによって支配されているなら、カゲストも同様に絶対支配の中にある可能性がある。
まあ――、十中八九そうだろう。
そう考えないとあのイエスマンがこんな大それたことに荷担するとは思えない。
顔色を窺うところや、会食時、スープの作り手がエルフ王であるのを知らされていなかった事に対して、王が作っていたことを知っていた蛇さんを不満を持った目で見ていたけど、見るだけでなにも言えなかったくらいのヘタレだからな。
とにかく――、
「本人を問い詰めれば分かることか」
十中八九の残された一と二程度の可能性で支配を受けていないことに賭けるしかないか。
「で、その前にこの状況はどうするのかしら」
「アァァァァァァア!」
半狂乱からただの狂乱となって暴れ回るポルパロング。
自身の屋敷であろうともお構いなしに破壊しながら俺達に襲いかかる。
「もう一回聞くけど――」
「無理よ!」
強めに返される。
普段だったら蠱惑な笑みで余裕を見せてくるリンだけども、こちらの発言を遮っての返答からして、ディスペルが通用しなかった事にプライドが傷つけられたようだ。
「なら……」
「現状、命を奪う事が解放――慈悲ということになる」
戦闘不能が難しいなら、命を奪う事を選択するしかないとリンは言う。
「じゃあ――私が!」
「いや、シャルナは駄目だ」
「でも!」
「流石に氏族同士でそれは駄目だ」
「じゃあどうるすの?」
「俺が――やるしかねえよな」
リンに任せられるなら任せたいけど、それをするとただの逃げ。
嫌な事に目を背けて、それを人にばかり任せていたら、俺の周囲から人が離れていく事になる。
さっきまでガグ――ポルパロングを殴っていた手に残火を再び握らせる。
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