PHASE-599【真の強者による語り】
「でもどうするの?」
「破壊するだけだ」
「それは困るわね。貴女はこの世界の理と事象を無視した存在のようだから」
ベルが即座に動き出す。それを止めるようにアルトラリッチが手を横に動かすだけで氷の矢が無数に顕現し、手をベルへと差し向ければ一斉に動き出す。
「無詠唱であれか。オベリスクからの供給がなくても殲滅力の高い魔法を行使できるんだな」
実際、規格外のフレイムアローを使用したけど、あの時は赤色の球体は光らなかった。あれは力の間のユーティリティではなく、地力の威力なんだろう。
「行けベル」
ラピッドで即座にベルを直上から狙う氷の矢を炎の盾で防ぎ、近づいてくるグレータースケルトンは頼れる面子が迎撃してくれる。
「本来はお前の見せ場なんだろうがな」
肩越しに笑みを湛えた美人中佐様は一気に駆け抜け、一本のオベリスクへと向かって跳躍。
目指すはバーストフレアで輝いた赤いクリスタルからなるオベリスク。
「ちょっと、ちょっと!」
アルトラリッチから焦りの声と共に、ベルへと手を向けて、
「ライトニングボア」
腕から放たれる三度目の雷の大蛇は先ほどより小型。
焦ったのか術がワンランク下だ。
「させないね。ブレイズ」
気概ある俺の声に応えてくれるように、残火が轟々と燃え上がる。
炎の刀身にて、
「キィェェェェェェェェェェェェイ!」
久しぶりの猿叫に合わせて大上段から雷の大蛇に向かって振り下ろす。
「なんて狂った声。クライゾンビでもそんな声は出さないわよ」
アンデッドの叫び声にも負けない男ですよ。
でもって、雷の大蛇の電撃音にも負けてやらないこの猿叫。
――見事に大蛇退治成功。
いや~まさか断ち切れるとは……。自分でも驚き。
テンションって本当に大事だな。
若干の痺れには襲われてますけども。
「見事だ」
と、短い賛辞とともに、ベルが跳躍してピラミディオン部分をレイピアで断ち切る。
「はあ!? なんでよ! なんで斬れるのよ……。アンブレイカブルを使用しているのよ……。メチャクチャじゃないそこの白髪ちゃん」
手で顔を押さえながらあり得ない光景だと驚くアルトラリッチ。
シャルナをチラリと見れば、極位魔法というワードが述べられる。
大魔法の上をいく魔法。
その魔法の一つであるアンブレイカブルは、リズベッドが地龍戦で使用してくれた大魔法であるアーチプロテクションの更に上をいく結界魔法。
そんな魔法を浄化の炎を纏ったレイピアで容易く斬ることが出来るとは、やはりベルは別次元だな。
「流石はベルだ」
「流石はベルだ――じゃないのよね。そんな当たり前のように言っていいことじゃないのよ。あり得ない事なんだから」
声に苛立ちが潜んでいるのが分かる。
アルトラリッチは赤色の球体が輝くオベリスクを斬られて不機嫌だ。
そんな不機嫌なアルトラリッチに対して、
「あり得ないという発言はいただけないな」
「何ですって!」
ベルの嘲笑混じる発言に、潜んでいた怒りが表に噴き出る。
長く艶やかな黒髪が怒りに合わせるようにうねった動きに見えるのは、空中に浮遊しているからなのか――。
「そうだろう。何のために人を捨ててアンデッドという存在になったのだ。魔法の深淵とやらを覗くために
「それが何!」
「探求する者があり得ないと否定するとはな――――と、思ってな。貴女がそこに行き着いていないという考えを抱かず、まだ見ぬ光景があるという事に思いを馳せない時点で、それ以上の成長は見込めないだろう。そんな者が私の仲間である少女の成長が遅いだの、足手まといだのと言うのは止めてもらいたいものだ。自ら限界を決めた探求者とその供の者よ」
「ベル……」
「「むぅ……」」
格好いい~。
琥珀の瞳を潤ませるコクリコ。
ベルに叱責されて拗ねたこともあったけど、この発言でいかにコクリコの事を思ってくれているかってのが分かるからね。
レイピアの切っ先を向けられて、空中で背を反らせてしっかりと重圧を受けているアルトラリッチとオムニガル。
そんなやり取りを目にして格好いいと思う俺は、その発言は俺が言ったことにならないかな~。と、邪な心を抱いてしまう。
次にはコクリコの捏造自伝の発想と全くもって変わらない思考だった事で軽くへこむ。
「気持ちの良い啖呵だな。限界を決めた探求者ってのがいい。矛盾をしっかりとぶつけてやっている」
ハリウッディアンなお髭が、上がる口端に連動して動く。
ゆったりとした立ち振る舞いに紫煙を燻らせる姿から、周囲を見れば見事にグレータースケルトンが全て倒されていた。
俺が雷の大蛇に挑んでいる間に随分と手早く残敵を蹴散らしてくれたようだ。
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