PHASE-112【無尽蔵】

 皆を代表するように、群衆から一歩前に出ているおじさん。

 囚われていた人々の心配だろう。

 

 港の皆さんを安堵させるためにも――――、


「舷梯の準備を」

 ゲッコーさんにお願いすれば、すでに準備は整っていた。

 

 甲板で安心からか力が抜けていた人達に、「もう大丈夫」と伝えて、舷梯まで誘導してやる。

 

 囚われた人々の姿を眼界に入れれば、港側からどっと明るい声が上がった。


「急がずにな」

 舷梯で転倒しないようにゲッコーさんが補助をしてあげ、次々と港へと足をつけていく女性や子供たち。

 力なく膝から崩れ落ちる人達が続出する。

 絶望しかなかった所から救い出されて、甲板以上の安全地に足をつけたことで、緊張の糸が切れたみたいだ。


「有り難うございました。勇者様」


「礼など不要です。やるべき事を実行しただけです」

 ――……町長のおじさんは俺に言ったんだよ。勇者様って語末に付いてただろう。


「なんで俺より前に立ってんだよ!」

 首根っこを掴んでコクリコを下がらせる。


「ここの町の人達だけじゃなくて、他の地域からの人達もいます」


「責任を持って、我々が送り届けます」

 うむ。おじさんの目にも力が宿ってきている。今の王様みたいな目だ。

 だが無理はさせられないので、ギルドメンバーをここに呼んでから対処しよう。


「しかし、海賊の脅威がないとはいえ、漁に出ても、成果が出るのに時間がかかるでしょう。そうなれば食料の問題も……。今後の身の振り方に苛まれます」

 やはり港町で漁は命綱だよな。

 

 活力はあっても、今後の事で、言葉には暗さも混ざっている。


「まあ、追加の船もありますから」

 拇指を立てて後をついてこさせた海賊船に向ける。

 

 そちらでは、ベルとゲッコーさんが、船から海賊たちをキビキビと歩かせている。

 ベルはバニースーツの怒りを海賊たちにぶつけているようだった。

 

 マントで隠してはいるが、うさ耳は隠せていないんだよな……。

 バシバシとどっから持ってきたのか、長い棒で背中を叩いて誘導しているウサギさん。


「あの船もいただいていいのですか?」

 漁にはデカすぎるだろうが、無いよりはましだろうし、先に鹵獲した海賊船も使ってもらって、漁師の皆さんに頑張っていただこう。


「まあ大きいですけど、小さいよりはましでしょう」


「立派な船を更に一隻とは……。ですが、あれは勇者様たちの戦利品としなくていいのでしょうか?」

 戦利品か……。確かにあれがあれば、ギルドのメンバーも喜ぶかもしれないな。

 拠点を広げるためには海路も重要だからな。

 

 でもまあ、俺個人の使用になるが、その気になれば、ミズーリだけでなく、残りのアイオワ級も出せるし、大和や長門の有名どころだって召喚できる。

 木造船は今のところいらないよね~。

 

 ん? ミズーリといえば、ベルは普通にシャワーを使用していたよな。

 ミズーリの中の物は使用可能なんだよな。

 

 ここでふと蘇るのが、ギャルゲー主人公の家だ。

 冷蔵庫には食料が普通にあった。


「ゲッコーさん」


「どうした?」

 海賊たちの牢屋までの誘導は、ベルと、町の力自慢達に任せたゲッコーさんが、俺の声に呼応してこちらに来てくれる。


「ミズーリの搭乗員って、二千を超えますよね?」


「そうだ。アイオワ級の乗員は約二千七百名くらいだな。三番艦であるミズーリは、三千名に届くくらいだ」

 じゃあ二千八百人として――。

 シャワーも出るなら、他も使用可能だろう。

 

 俺たちがベルのバニー姿を眼福にあずかった場所は食堂。

 二千八百人を一日三食で計算すれば、八千四百食。

 

 ここの町の人達の人数は、救い出した人達も含めて、ざっと見て、四、五百人くらいだ。

 余裕で賄える。


「ちょっと確認してきます」

 ――ミズーリに戻って、厨房に入れば、缶詰もあれば、鮮度のいい野菜に小麦粉もある。


「お! ポークランチョンミートの缶詰まである」

 沖縄でお馴染みのやつだ。

 これのおにぎりとか好きなんだよな~。

 

 ここの食料を少し提供すれば、活力もつくってもんだろう。

 

 先生が以前、王都で言っていたが、自立をさせることが大事だから、依存させないようにするためにって事で、俺たちは隠れてレーションを食べていたが、先生は、俺が名声を得る事も大事と、考えてもいる。

 

 王都とのラインが繋がる間くらい、少しはほどこしても問題ないだろう。

 

 でもって、セーブしないでまた召喚すれば、以前のデータが反映されるって話だったからな。

 無尽蔵に食料を得られるぞ。

 

 凄いじゃないか俺のミズーリ! イエスも驚く奇跡だぞ。

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