PHASE-113【エルフの子】

「全部は駄目だぞ」


「ほう!?」

 お願いですから、気配を消して背後に立たないでいただきたい。


「わかってます」

 言えばゲッコーさんは、


「運ばせようか」


「はい」


 

 ――――まあ、町の皆さん狂喜乱舞だった。

 なんたって小麦もあれば、肉だって有るし、充実した野菜も有る。

 正直、王都ではまだこんなにも食べ物は出回っていない。


 この世界、人が生活をしている場所の中で、この港町の食事レベルは、もっとも高いかもしれない。

 レゾン以外で囚われた人達も、当面の間は、この町で過ごす事になるから、配給も多くしないとな。


 漁師の方々は、急ぎ海賊船に乗って、どうやって漁をするかを考えているようだ。

 すでに先の事を考えて動けるバイタリティーは素晴らしい。


 ――――うむ。流石はベルだ。美味い。

 ミズーリからの食材を利用して、港で宴が開かれた。

 

 パンを焼き、野菜はスープの具材。ランチョンミートは切って焼くだけ。でも、最高に美味い。

 

 辛い生活を余儀なくされていた港町の人々は、美味さに感涙である。


「う~ん。美味すぎる!」

 ゲッコーさんはミズーリからこっそりと持ち出したブランデーをグビリと飲んで、久しぶりのアルコールを楽しんでいる。

 

 ベルは施すことが好きなのか、食事を作り、自ら運ぶという、帝国軍中佐とは思えない給仕っぷりである。

 ありゃいい嫁になる。

 うさ耳を揺らして運ぶ姿は最高だな。マントも取ってほしいね。

 

 で、コクリコは、自分が活躍したとの捏造発言で、人々から尊敬されていた。

 調子に乗るから賞賛を送らないでほしい。


 俺はそもそも人前に立つのは恥ずかしい人間なので、感謝を受けながらも、目立たないところで食事を楽しむ。

 その行為がとても謙虚だと広がって、好意を抱かれた。


 若い女の子たちにキャッキャ言われるのは悪くない。が、もともと免疫がない俺としては、キャッキャ言われると、どうリアクションをすればいいのか困っている……。


「ありがとうございました勇者殿」


「お……う?」

 むむ? なんだこの美少年は。

 碧眼で、透き通るような金髪。でもって――、


「その耳」

 笹の葉みたいな長い耳をしてる。


「エルフ?」


「はい」

 ほえ~エルフだよ。THEファンタジーの象徴じゃないか。


「森から攫われ、小島に囚われていましたが、勇者殿たちのご助力で救われました」


「いいよ。そんな丁寧に」

 典雅な一礼は子供のするような挨拶ではない。

 長命であるエルフだからな。背格好は六、七歳くらいだが――、


「ちなみに年齢は?」


「今年で八百二十六になります」

 とんでもねえ年上だった……。


「世界を知らずに油断をし、エルフのテリトリー外まで出たのが失敗でした」

 背格好と語り口が一致しない……。


「その森まで無事に帰れるように、こっちも協力するから」


「有り難うございます。僕の事を探しに出ている者たちもいるでしょうから、その者達に安心してもらえるように、僕も努力します」

 出来た子供だ。

 ――……子供ではないな……。めっちゃ年上だし。

 

 エルフの住まう森か。行ってはみたいが、エルフは人間嫌いと相場が決まってるからな。

 でも、この子の所作を見てると、人間嫌いとは思えないな。

 人間嫌いの設定って、俺の世界の物語だけかな?

 

 とはいえ、俺たちはやらなきゃいけない事が山積している。

 他のエルフにも会ってはみたいけど、この子のことは他にまかせよう。

 その為にも先生に相談を――――、

 

「主」

 おう、なんていいタイミングでしょう。まるで狙っていたかのようですね。先生――。




「ん~」

 まったくミズーリ様々だ。シャワーにベッド。快適な生活を与えてくれるってもんだ。

 甲板に出れば、涼しい海風が頬を触っていく。


「お! おはようございます先生」


「あ、主……」

 どうしたんだろう。昨日はヒッポグリフに跨がって颯爽と登場したのに、この元気の無さは。

 生返事なんて初めてかもしれない。


「どうしました?」

 率直に聞いてみる。


「いや、このミズーリなる船ですよ。鋼鉄が浮き、あの長筒より火を噴く。この様な物まで呼び寄せる力を持っている主の偉大さに、肝を冷やしております」


「あ、安心してください。こいつの力に溺れるってのはないですから。そうなったら、ベルとゲッコーさんに怒られるし、先生にも愛想尽かされるでしょうし。俺はミズーリを先生たちと同じように、頼りにするけども、依存はしませんから」


「それを聞けば一安心ですな」


「先生の思いを裏切ることはしませんよ」


「救われます」

 この世界だけでも、主として、先生に憂いを与えないようにしようじゃないか。

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