PHASE-111【引き際は大事】

「は、外れない!?」

 俺を殴った手でうさ耳バンドを外そうとしているが、取れなくて困惑している。

 フフフ――――。

 

 倒れた状態からやおら立ちながら、ほくそ笑んでやる。

 口の中が鉄の味に支配されるが、余裕を見せる俺。

 

 ゲッコーさんは巻き添えは御免とばかりに離れている。

 チッ! 情けない。それでも伝説の兵士ですか!


「それは装備品だからな。俺が許可を出さないかぎり外れないのさ。もちろんバニースーツもだ! いいか! 俺に逆らうといつまでたってもそのままだぞ! 俺をマスターとして――」


「そうか――――」

 いや、俺の話を遮らないでくれる。

 

 なんで、そんなに冷静なの? なんで指からポキポキと音がするの?

 なんでゲッコーさんは、食堂から退出しているの? 本当に、それでも伝説の兵士なの?


 これは……、まずい状況か? 

 未だかつて経験したことの無い、抗うことの出来ない暴力が待っているのだろうか?


「分かりました。俺が悪かった。装備を解くから」


「素直だな」

 お前の目がやばかったからだよ……。


「でも――、いいんだな?」


「シャワールームといい、お前のその含みのある言い様は大概だな! 私を本気で怒らせたいか!」

 炎は禁止!


「装備だからさ。解除しちゃうと――――、分かるだろ?」


「まさか!?」


「そうよ、そのまさかよ! まっぱになるぞ。まろびでちゃうよっふ!?」

 やめて、胸ぐらを掴まないで。息が出来ないくらいに締めないで……。


「俺は優しさでいっでるんでず」

 死んじゃう。窒息死する。窒息するならその胸がいい。


「くっ! 覚えていろ」

 悪役の如き台詞を発して去っていった。

 何とか難を逃れたようだ。

 

 しかし、色欲とは怖いもんだ。

 後先考えない行動だった。


 バニーの恰好が見たいと思ったら、大義名分を振りかざして、即、実行だったからな。

 後に迫る現実を考えていないんだもの。

 

 だけども、俺の事をさんざっぱら鼻で笑ってたからな。

 猿叫とかさ。

 その時に抱いた復讐は、しっかりと果たせた。

 

 だけど、ボコボコルートのフラグが立ったよね……。

 ベルの軍服が復活した時、俺は手痛い目に遭わされるかもしれない……。


 だがいい! エロい恰好が見られたから!

 

 ――――当のベルは捨て鉢になっているのか、バニースーツのまま露天艦橋で腕を組み、海原を眺めている。

 長い赤い髪に、うさ耳と燕尾を靡かせての仁王立ち。

 

 長い足のスーパーモデル体型の威風堂々たる姿。

 あれだけ恥ずかしがってたのにな。甲板にいる人達もなんだアレは? といった感じで見上げている。

 

 俺はそんな中で、プレイギアのカメラ機能を使って激写しまくりだ。





「――――到着です」

 なんて無茶なことをするんだコクリコは……。

 本当に魔法使いなのか?

 ミズーリの甲板から港に飛び降りるとか、本来なら怪我じゃすまないぞ。


「おお、揃ってる」

 コクリコを追った視線で、そのまま港を見渡せば、町長のおっちゃんに、孫娘や町の人々が集まっていた。


「俺たちも行こうぜ」


「う、うぬぬ……」

 その恰好を流石に衆目にはさらしたくないようだ。露天艦橋では堂々としてたのに。

 だが、俺に弱いところを見せられないとばかりに、バニースーツのままミズーリから降りようとしていた。


「マント貸そうか?」

 言えば、眉間に皺を寄せて、柳眉を上下に動かし、困惑の表情を見せてくる。

 

 俺に借りを作るか、プライドか。

 俺が手にするマントを受け取るかどうか、迷っている。


「……頼む……」

 プライドよりも羞恥心が上回るところが乙女だな。

 纏えば、全体を隠せた。


「まったく! 早く貸せば良かったのだ」

 貸したらその姿が見れなくなるからな。

 ま、カメラには収めたから、もう大丈夫。


「何を見ている?」


「素敵なメモリーを」


「!? 壊してやる!」


「やめてくれ! 俺のプレシャスメモリーなんだよ!」


「ふざけるな!!」

 必死にプレイギアを守るために両手で抱いて、体を丸める俺。

 アダマンタイトの甲羅で出来た亀を己に憑依させるイメージ。

 

 こんな馬鹿なやり取りをしていれば――、


「あの!」

 港からの大きな声。町長のおじさんが声の主だ。

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