PHASE-1534【切り払いの極致】
――そんじゃいっちょ!
「やってやりますか!」
「やってやろう」
二人して構える。
俺とは違いゲッコーさんの構え方は独特。
腰を落としての右手片手持ち。
グリップは強く握らず、拇指は刀身の背の部分に添える。
ナイフの握り方をそのまま反映している感じだな。
右肩を前に出してのやや半身の中腰。
小太刀は横に寝かせ、左手は刀身に触れるか触れないかの部分で維持。
相手の意識を散らせるためなのか、小太刀をゆらゆらと上下に動かし続ける。
まんま俺がプレイしたゲーム内の構え方である。
「よく似た構えを目にしました。アルスン殿がこの場にいるようです」
「へ~」
俺がストレンクスンとアクセルを教わった時はそんな姿勢じゃなかったけどな。
水の流れのようなゆらゆらとした姿勢だったと記憶している。
俺の知らない翁の本気モードってところか。
いつか見てみたいもんだ。
「話はそこまで!」
ワンドの貴石が黄色に輝く。
「ライトニングスネーク!」
が、次戦の合図とばかりの鏑矢代わり。
当然、攻撃が通用しないのは分かっているけど、力を練った電撃の大蛇三匹に続くように俺とゲッコーさんが駆ける。
足並みを揃えるためにアクセルは使用せず、ゲッコーさんと併走。
といってもそこはゲッコーさん。
ピリアを使用できなくても健脚の持ち主。
逆に俺の速度に合わせてくれている。
対するクロウス氏は翼を羽ばたかせて天井付近で俺達を待ち受けつつ、コクリコの電撃の蛇三匹をアナイアレイションで対処。
と、同時にお返しとばかりにブリッツスウォームを放ってくる。
これにはユーリさんがAA-12でカバーしてくれる。
確実に迎撃してくれるので俺達は回避を意識せずにクロウス氏に向かって駆けることだけに集中できるのがありがたい。
「おみごとです」
と、対処の良さに相対する方からは称賛。
「面倒な魔法だな」
「大魔法は伊達じゃないって事でしょう」
「そのようだ」
併走するゲッコーさんと短く言葉を交わす。
相当数を消費させたブリッツスウォームだったが、眼前では補充とばかりに最初に目にした光景と同様の事が繰り返される。
宙空からの出現。そして雷ボールの分裂。
一発が派手な大魔法とは違うけど、連続して高火力の電撃を放ち続ける事が可能な継戦能力の高さが強味ってところか。
脅威ではあるけども、
「徹底して迎撃するから二人は心配なく」
肩越しに見るユーリさんはドラムマガジンを素早くリロード。
「トドメは私がもらいますが、それまでは二人に花を持たせましょう」
と、コクリコも俺達の接近までは自分も後衛として掩護するとのこと。
迫ってくるブリッツスウォームをアークウィップにて薙ぎ払っていく。
「如何に強力な電撃の玉であっても、薙ぎ払えるのなら対応も出来るというもの。何度も目にし、戦いも長引けば私でも対策の一つや二つ生み出せますよ!」
なんて頼りになる発言。
ユーリさんだけでなく、コクリコの迎撃がこんなに頼りになるとはね。仲間として誇らしいってもんだ。
「流石に的が大きいと対策も容易ですね。対軍用の魔法なので広範囲にて使用する時は絶大なんですか、対応してくる方々が相手となると別の対策も必要になってくるというのを学ばせていただきました」
「感謝の言葉は地面に倒れた後に聞かせてもらいますよ」
「いえいえ、そちらが倒れた後に言わせていただきます――勇者殿」
クロウス氏の大魔法の継戦能力が如何に凄かろうと、流石に無茶をしているとも思う。
ゲッコーさんとユーリさんの強者二人に加えて、俺とコクリコを合わせた四人を相手取るとなればかなり無理しているはず。
確証を得ていないから、安易な考えで行動してしまえば足を掬われてしまうだろうが、大魔法だけでなく上位魔法に、パッシブでの不可視化障壁魔法も発動中だからな。
マナの底上げや持続力なんかの効果がある装身具を身につけているとも考えられるが、それでもかなりの時間、大魔法を展開し続けている。
生徒会長もグラトニーの展開を維持するのはきつそうだったからな。
クロウス氏だって例外じゃないはず。
どれだけ強かろうともバテる時はバテるし、バテるように追い込む!
「止まりませんね」
「止まりませんよ!」
「良い気骨。ならばこれはどうでしょう」
右手を天井へと向ける所作。
間違いなく何かしらのアクションなのは分かるが、俺とゲッコーさんは足を止めない。
「スプレッドアロー」
と、発せば、上げた右手の上に水が顕現。
水は形を成していき、大きくて長い槍となる。
「…………アローとは……」
「ランスやジャベリンって名前の方がしっくりする」
「ですよね。まあ、強者の場合は通常よりも肥大化しますからね。リンが良い例です」
「そうだな。まあアローと発しているから間違いなく飛ばしてはくるだろう」
ゲッコーさんが言い終えるのを待っていたとばかりのタイミングで水の槍を投擲。
二人に対して一本の水の槍。
「見た目だけで判断してはいけないでしょうね」
「当然だ」
俺もゲッコーさんも一年以上、この世界でファンタジーに触れてきた。
水の槍一本ですむなんて思わないよ。
「ほら見たことか!」
一本の水の槍が俺達の頭上手前あたりに到達したところで勢いよく拡散。
大きな槍がハンドガンの弾丸サイズとなって斜め前方から降り注ぐ。
「水の鏃です。ブリッツスウォームと違い、この大きさならば流石の技量でも迎撃は難しいでしょう」
確かに難しいけども、
「イグニース」
を展開しながら走れば問題なし。
ユーリさんの迎撃掩護も必要ない。
問題があるとするなら――、
「ゲッコーさん俺の方……に……」
「なんと……素晴らしい……」
相対する者が俺の気持ちを代弁。
いや、分かってはいたけども、本当に可能となるとスゲえな。
手にした小太刀を振り、面で迫ってくる水の鏃を切り払っていく。
「ゲームや漫画の世界だな……」
実際、ゲーム内で可能な芸当だけども、現実でやられるとね……。
高速で振り回す小太刀によって、降ってくる面による攻撃が切り払われていく光景が続く――。
足を止めることなく前進しながらの切り払い。
――一度も被弾することなく鏃を払い切った。
痛打を与える事の出来なかった鏃は飛沫へと変わり、ゲッコーさんの体をわずかに濡らすだけ。
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