PHASE-995【全力で拒否しないで……】

「届け我が思いモロトフ

 ティンダーでガソリンが染みた紙に火を付け、そのままマジョリカへと投擲。

 放物線を描きながら標的へと向かっていく。


「なんともつまらん攻撃だな。攻略すると言っておいて、繰り出すのが瓶を投げるという行為か」

 嘲笑しようが関係ない。回避なんてさせないという思いしかない。

 すかさずホルスターからライノを取り出し、照門から見える照星をマジョリカへと合わせる。

 躊躇なく食指をトリガーにかけて、六発全てを発砲。

 ガツンガツンと手首に走る衝撃。

 ピリアで身体能力を向上していても、走りつつ片手射撃となるとリコイルコントロールなんてないようなもの。

 当然、命中なんてのは期待していない。


「プロテクション」

 で、防がせることが俺の目的だったし、その通りに動いてくれて、


「謝謝」

 感謝しつつ、放物線を描いて落下するモロトフと落下点に立つマジョリカを見る。


「ふっ!」

 小気味よく声を発しつつ、しっかりと斬撃。

 上手いもんで回転しながら落下する瓶の口部分だけを綺麗に斬ってみせた。

 ガシャンと音を立ててマジョリカの側で瓶が割れる。

 火の付いた瓶の口部分を斬られたため、当然、炎が燃え広がるという事はなかった。

 しかし――、


「なんだこの臭いは……毒の臭気か?」

 美人さんの顔が歪む。

 この世界では経験のない独特なニオイだろうからな。


「そいつはガソリンっていうんだ。でもって砂糖入り!」

 言いつつ俺は跳躍。

 もくろみ通りに進んでくれている。

 

 目で補足するのが難しい銃弾をしっかりとプロテクションでガードさせ、目に見える瓶に対しては抜刀による迎撃。

 瓶の中身が液体で、且つ独特のニオイにも警戒していたようで、斬撃後わずかに距離をとられる。

 距離はとってほしくなかったというのが本音だけども、何よりも抜刀させたので問題なし。

 神速の抜刀をさせない事が最重要だからな。


「納刀はさせない」

 マジョリカへと向かって降り立つ途中で、


「本当にお久しぶりだな」

 と、継げば、脳内で「解せぬ」って幻聴が聞こえてきた。

 でも今回はしっかりと頼らせてもらう。

 

 空中にて右の半長靴に巻き付けているアンクルステルスポルスターへと手を伸ばし、抜くことなくトリガーに指をかける。

 お久しぶりのチーフスペシャルさん。

 かけた指を即引けば、ライノよりも軽い乾いた音が一発。

 狙いを定めたのは――割れた瓶の場所。

 チュンと音がすれば、


「なっ!?」

 マジョリカの側で炎が勢いよく立ち上がる。

 独特なニオイの液体が発火の原因だと理解し、わずかだったが炎に意識を持って行かれたご様子。

 ――そのわずかを利用して、マジョリカの目の前に着地。


「くだらん手品で虚に付け込む」


「だけどその手品のタネにしっかりとひっかかってんだよな」


「なめるな!」

 片手による斬撃なんて怖くない。

 上段から袈裟斬りを狙ってきても、それはしっかりと左の籠手で防ぐ事が出来る。

 全体の動き――特に鞘を持つ左手を意識しつつ、


「それも捌く!」

 鞘から俺へと向かって伸びてくる紫色の輝きを右の籠手で払いのけ、左手でマジョリカの刀を持つ右手首をしっかりと握り、捻ってからの、


「投げ!」

 気迫を発する俺と、体を反転させて地面へと勢いよく倒れていくマジョリカ。

 全身を叩きつけるつもりの投げだったが、そこは団長殿。


「ぐぅ!」

 頭を起こして背中から落ちる。

 握った鞘を手放し、左腕で地面を叩いての受け身をしっかりと取っていた。


「おら!」

 間髪入れず倒れるマジョリカに跨がりマウントをとる。


「力では俺が上なんだよな」

 心の中でつい、ぐへへ――って声を漏らしてしまうゲスい俺。

 刀を持った手を押さえつつ、地面に転がる鞘を遠くへと投げ飛ばしてやる。


「もしマウントから逃げられても、鬱陶しい抜刀とロンパイアによる攻撃は封じてやったぞ」


「おのれ!」


「さて、不法侵入のお仕置きタイムだ」

 烈火をしっかりと叩き込んで、ワンパンで終わらせるのが優しさってもんだろう。

 マウントをとっているからしっかりと時間をかけて烈火を練って――、


「男が私に跨がるな!」

 鬼気迫る語調に背を反らしそうになるが、耐えつつしっかりと押さえつける。


「んな事を言われても命をかけた勝負だからな。実際こっちは死にかけたんだし、手は抜けないね」

 膂力の差で一気に制圧させてもらう。


「離れろ! 汚らわしい!!」

 ――……なんだろうか……。

 美人に必死の形相で言われると、普通に心にデカいダメージを受けてしまうのですが……。

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