PHASE-360【門内ガラガラ】

「本物の六花の紋章じゃい!」


「その証拠は!」

 なんで強気に切り返してくんだよ……。

 もしかして今まで俺がこのマントを纏っていても、誰も勇者って信じなかったのって、ひとえに俺の普通すぎる風貌が原因だったりする?

 

 だからコクリコもシャルナも信じなかったのか? その度に股間が鈍痛に襲われるって事だったのかい?

 マントの効果が霞んでしまうほどに、大いにマイナスにしてしまう俺の存在が原因なの……。


「とりあえず詰所に来てもらわないといけないな」


「いやいや、本物の勇者だし!」

 打ちひしがれて両手両膝を地面につけたくなるが、なんとか踏ん張って、切り返す。


「どちらかと言うと、そちらの御仁の方が――――」


「もういいよその流れ!」

 怒りを混じらせた声を出せば、警戒とばかりに槍を俺へと向けようとする。

 ここまで俺を侮辱しているお前等が不遜だとは思わないのかよ……。

 まあまあと、そちらの御仁ことゲッコーさんが俺をなだめる。

 まったくどいつもこいつも。俺は勇者なのに!


 ――――ゲッコーさんが俺に変わって説明をすれば、得心はいかないようだが、頷いている姿が見られる。

 王都だと、王様だけでなく、大貴族だって俺に親しく接してくるのに。

 それこそお前等が仰ぎ見る人達がだぞ!


「認めてもらいたくても今のお前は貫禄不足。相手を責めるのではなく、自身の器を大きくしろ。ここで相手に対して不平不満を抱けばそれだけの器という事だ」


「むぅぅ……」

 表情を読み取ったのか、ベルからありがたくも、ぐうの音も出ないお言葉を賜る。

 ここでふて腐れれば、俺はしょぼい存在って事だ。

 深呼吸をしてから精神を整える――――。

 かなりの回数の深呼吸だったよ。


「しかし、変わった乗り物ですね。馬が引くわけでもないし、生き物でもないようです。ゴーレムの類いですか?」

 と、興味津々のモヒカン兜がゲッコーさんに質問していた。

 名前をルクソールと言うらしい。

 五人からなる騎馬隊の伍長を務めているそうだ。


「これは俺が召喚したんだよ」

 ここで一歩前に出て伝える。社会では自己主張も大事らしいからな。

 だが、やはり俺に向けられるのは訝しい表情だ。

 俺の発言には信頼性がないのだろうか……。

 

 じゃあ見てろ! と、信用を得るために、俺はプレイギアを取り出して、もう一台ハンヴィーを召喚してみせる。

 

 結果、騎兵達は驚きの声を上げて、俺の事をただ者じゃないと判断してくれた。

 といっても、不思議な力を使えるというのを信じただけで、勇者とは信じてくれなかった……。


「もういいよ。俺達のことを少しでも分かってくれたのならそれでいいから、案内をお願いしたい」

 

「分かりました。案内しましょう」

 力は認めてくれたようで、ルクソールはゲッコーさんではなく、俺の言葉で鷹揚に頷いてくれた。

 

 ――――騎兵の後をゆっくりとした速度でついていくことしばらく――――。

 


「見えてきたな」

 助手席のベルの発言に、俺は窓から頭を出す。


「立派だな~」

 ――――正面に見えてくるのは、王都と比べても見劣りしない高さのある城壁。

 高さにして十五メートルくらい。壁上には軽装の立哨が二人一組で等間隔に立っている。

 壁上ということもあって、皆、弓兵のようだ。

 素早く弓を構えるための軽装なんだろうな。

 

 門は開かれており、門の左右には三人一組の槍を手にした門番。

 立派な鎧を纏った門番が六人だ。


 門の作りは跳ね橋構造。

 幅広い堀に囲まれた極東の城郭都市、ドヌクトスへとようやく到着した。

 バランド内での商業はやはり活気があるようで、街道では幌馬車に乗った行商人がドヌクトスから他の町村に赴いていた。

 俺たちの乗り物を目にすれば、手綱を持ったまま、大きく目を見開いて凝視しながら通り過ぎていく。


「脇見は危ないですよ」

 忠告して上げる俺。


「忠告もいいが、こちらも警戒はしておけよ」

 橋を通過して門を潜る時に、ゲッコーさんが神妙な面持ちで口を開く。

 一応は信用してもらっているから問題は――――、


「ん?」

 突如として先を行くルクソールたち騎兵が、馬の歩法を速歩から駈足に変える。

 と、同時に――――、


「オンオン!?」

 ガラガラと金属音が鳴り響き、継いでガシャンという音と共に、俺たちの眼界が格子状の世界に変わる。


「ま、そうなるか」

 落ち着き払っているゲッコーさんは煙草を吸おうとするが、


「外でお願いします」

 と、ベルに言われて、煙草を仕舞う。

 ゲッコーさんだけでなく、ベルも余裕だ。


「いやいや、バック!」

 反対に俺は焦る。


「遅いだろう」

 焦りとは無関係なゲッコーさんが、拇指を後方に向ける。


「…………ほ、ほほう……」

 なんということでしょう。後方にも格子状の物が現れております。

 眼前の格子と同時に展開されたようだ。

 

 ご丁寧に門も閉じられていき、その隙間からは跳ね橋が上がっているのも見て取れた。

 おお……。到着早々に崖っぷち……。

 ピンチだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る