PHASE-359【カリスマってどうやったら身につくの?】

「クレスト兜の君がこの編制の隊長かな」


「あ、はい」

 おお、流石はゲッコーさん。

 物言いが正に指導者とばかりの、重厚で低くも良く響く声だ。

 クレストと呼ばれる、古代ローマやギリシャなんかで目にしそうなモヒカン状の鶏冠兜を被った人が、完全に呑まれている。

 

 残りの四人はゲームなんかでもよく目にする、頭にバケツを被ったような兜、確かグレートヘルムと呼ばれるタイプの兜だな。

 表情が読み取れないのが不気味でもあるが、モヒカン兜同様に、背筋をやや反らせていることから、ゲッコーさんに呑まれているのは分かる。

 そのゲッコーさんが称賛するように、立派な鎧姿だ。

 呑まれていても鎧からは威厳が漂ってくる。


「貴方方のことは、物見から連絡がありました」


「有能だな。ちゃんと監視をしていたか」

 スムーズにここまで来られたって訳じゃなかったようだな。

 監視の目があったわけだ。


「普段なら気にしないのでしょうが、気になってしまう物に乗っているとですね」

 一応、街、町村の前では刺激しないために、徒歩だったんだけどな。

 街道の至るところに監視の目が光っていたようだ。

 しっかりとしている。現状の振る舞いを見るだけでも、練度の高さは王都兵以上だろうな。


「抵抗はしないでいただきたい」


「するつもりはないさ。ただ不条理な力を振るわれるなら、それ相応の対応はするがな」

 語末に進むにつれ、ゲッコーさんの声が鋭い刃に変わったかのようだった。

 騎兵だけでなく、馬ですらゲッコーさんの気に当てられたのか、後退っている。


「さぞ名のある方なのでしょうね」

 モヒカン兜の人が馬上の人から、自身の足で地面に立ち、典雅な礼をゲッコーさんに行う。

 四人のバケツ頭も急いで下馬し、同様の礼をしていた。

 さっきのゲッコーさんの発言、俺が言ったことにならないかな~。

 格好いいし、その後の騎兵達の対応を見せられるとね~。

 絶対的強者とカリスマ性を両立させた風格が最高です。

 そのカリスマ性が欲しいです。


 相手を真似て、皆して降車し、挨拶を行う。

 バケツみたいなグレートヘルムで視線は分かりにくいが、明らかに騎兵達はベルとシャルナをガン見している。

 手にした槍を落としてしまうくらいに。

 完全に美しさに当てられて、惚けてしまっているようだ。

 部下四人を余所に、モヒカン兜の騎兵隊長は真面目だ。どこから来たのか? という質問は、とても丁寧な口調だった。

 

 質問を受けて、代表して前に立つのは、もちろん俺。

 その瞬間、モヒカン兜が眉を顰めたのは言うまでもない。

 今ので、俺にカリスマ性なんて無いって事が、はっきりと分かったよね。


 ――――俺同様に相手にされていないのが、コクリコさんだ。

 ベルとシャルナだけに目が奪われている事が面白くないんだろう。自分には向けられていない視線を向けさせるように、ベル達の前にすっと立つ。

 当然のことながら、全くもって相手にされないので、コクリコの眉は不快さからつり上がってしまう。

 俺も似たようなもんだから、もしコクリコが暴れるような事があっても、俺は止めないだろう。

 まあ実際に暴れられると困るけど。ここは王都じゃないからな。


「遠坂 亨。このパーティーの一応リーダーをしている。でもって勇者だ」

 火龍の装備を身に纏い、胸を張って威厳を見せる発言には、自分でも褒めてあげたいくらいの威風堂々たる姿だった。

 これで顰めた眉も元通りだな。


 ――…………。


 なんだろうか。この静寂は? 耳に何も音が届いてこないぞ。

 シーンっていう、森閑の擬音だけが脳内で響いている。


「勇者をやらせてもらっている…………います」

 静かすぎる事に自信が無くなって、言葉尻を敬語へと変えてしまう……。

 ――……。


「プッ」


「おし! そこのバケツ頭の前から二番目。お前だな。絶対にお前だ! なに笑ってくれてんの? ガチンコでやってやろうかゴラ!」

 コクリコよりも前に俺がキレてしまう。

 我が愛刀残火の生身第一号にしてやろうか!

 分かってるよ。毎度、毎度。俺が勇者と発せば信じてもらえず、スルーもされる。

 周囲がカリスマ性やら美貌やらで完全に普通な俺は霞んでいるからな。

 霞みすぎて見えないってか! あぁん!

 だがな――――!


「このマントを見るがいい!」


「な!? それは六花の紋」

 おうよ。その通りよ。


「少年、それがどういう意味か分かっているのか? それを使用してはいけない。我々は君を拘束しなければならないぞ」


「なんでや!」

 拘束って何だよ! ふざけたことを言うヤツだ。鶏冠むしってやろうか!


「それは王より与えられるとされる物。実物を見たことはないが、偽物を悪用するという者はいる」

 ――……ほう。じゃあ何か? 俺のこの六花の紋が入ったマントは、偽物だと思っているのかね?


 ――…………生意気ぃ!

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