PHASE-452【ショゴス】

 勇者が脅威と理解している事と代弁で、コトネさん達の溜飲も下がったのか、俺に再度、深々と頭を下げた後にショゴスの説明を行ってくれる。


 ――――スライム。魔大陸だけでなく、何処にでも生息する知性の低い粘体モンスター。

 善悪というものは無く、臆病。

 基本、少しでも戦いの経験を培った冒険者からは完全にスルーされる存在。

 魔大陸でも同様に、相手にはされていないらしい。

 だが、ショゴスと名を持つスライムは違った。

 欲望が異常に強かった。

 最初に求めた欲は、深淵の闇から抜け出したいというもの。

 粘体にて懸命に這い上がり、脆弱な体で大地へと向けて旅立つ。

 

 名を持ち、陽の差す地上へと出ることに成功し、次に欲したのは言葉だった。

 言葉を手早く得る為に、言葉を話すことが出来る者を自らに取り込もうとする。

 だが、その為には最低限の戦闘を可能とする力が必要となる。

 慈悲深い魔王へ、底辺にいる存在から脱したいと、語ることが出来なくても願うことで伝わり、魔王はその慈愛をもってショゴスにマナのコントール方法を授けてしまう。

 最弱の存在であるスライムは、言葉よりも早く、魔法を得た。


 魔法を使用し、自分より力を有しつつ捕食できそうな存在を選定して襲い、取り込む。

 そしてまた更に強い存在を――――と繰り返すことで、ついには言葉を話す者を捕食するまでに至った。

 言葉に続いて高い知性も欲し、それを有する者を食した。


 高い知性を得れば、自分がどのような立場なのかを深く理解した。

 自分は未だ弱い存在。

 魔法、言葉、知恵を得たことで欲望は強さを増す。その欲とは、持っている物を手放したくないという独占欲だった。

 弱い存在である自分がもしここで死んでしまえば、今まで必死になって得た物を失ってしまう。その恐怖心が更なる力を渇望した。

 ショゴスは力を求め、次々と捕食を繰り返し、ついには魔大陸で脅威の対象となってしまう。

 討伐隊を派遣しても誰も勝てない存在になったそうだ。


 強大な力を得たショゴスの欲は終わりを知らない。

 マナのコントロールをもっと得たいと、魔王を襲い力を奪った。

 

 捕食する事はなかったそうだが、マナをコントロールする術を得たショゴスは、その力により魔大陸の支配を始める。

 自身に恭順する者達を動かし、次々と版図を広げていった。

 

 捕食を選択しなかった魔王を質にする事で、魔王に従う者達の矛を収めさせ、自身に従わせた。

 自身に忠誠を誓う者には更なる忠誠を示すようにと、人々の住まう大陸――カルディア大陸まで軍勢を放った。

 

 力を得たいからこそ、この世界の全てが自分の所有物にならなけらば我慢ならない。

 スライムとしての貪欲な悪食さを残したまま、ショゴスは力と知恵とマナ、版図と軍勢を手に入れた。

 歯止めが利くことのない欲に溺れた凶暴な存在。

 魔王の才能を取り込み、現在も有能な存在を捕食しては、自身の強化につなげているだろうとの事だった。


 ――――話を聞き終われば、スライムは最弱と考えていたコクリコとシャルナは、室内全体に届くような大きなため息を吐き出す。


「スライムは最弱であって最強なんだ。覚えておけ」

 得意げに俺が言えば、シャルナは素直に頷き、コクリコはメモを取る。

 多分だけど、自分が言ったことにするつもりなんだろうな。


「知恵を得たのはいい事でしたな。広い視野で見ればよくはないですが。いや、いいのかな?」

 首を傾げつつ先生が発する。

 知恵をつけたから、前魔王に利用価値があると考える。だから前魔王は命を奪われずにすんだ。

 前魔王の延命は良いことでもあるが、それによって従わされている者たちは人類の脅威になる。

 だが前魔王を救い出せば、その勢力を味方につけることも可能になるだろう。


「先ほど即答をいただきましたが、もし主がそちらの主殿を救い出した時、貴方方、前魔王派は我々と共に戦えますか?」


「現状でもそうします」


「いえ、メイドの皆さんはそうでしょうが、ここでの確認は、他の前魔王派の――」


「全力で説き伏せます! 我々も可能な限り、トール様たちと行動を共にいたします!」

 ここでも先生の発言を断って、即答のコトネさん。


「ありがたい発言ですが、現状で貴方方に表だって行動されるのは――」

 謀反の疑いがあると現魔王勢力に知られれば、魔大陸にて活動している前魔王派が危険に晒されてしまう。

 ややこしい事態は回避したい。

 前魔王を救い出すまでは、サキュバスさん達には表に出て欲しくないと先生は考えていた。


「先生。俺さっき攻めてきたクロウスってヤツに、メイドさん達は敵として挑んできたから、全員の命を奪ったと伝えました」


「素晴らしい! 流石は主です!」

 笑顔と大音声にて先生は俺を称えてくれる。

 あの時は何も考えずに口から出任せを言っただけだったからな。

 あの後、ベルやゲッコーさんに思慮が浅いと怒られないかビクビクしていたけど、怒られることもなかったし、先生にも褒められたから結果オーライ。

 

 俺の出任せによって少なからずメイドさん達には自由が生まれた。

 といっても目立つことは出来ないので、当面はこの屋敷なんかで侯爵の世話や、姫様の護衛を任せたいと伝えれば、快諾で返してくれた。

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