PHASE-453【基本、女性陣はいつもやる気】

「ちなみに、現魔王であるスライムのショゴスって、どのくらい強いのですか?」

 誰もが知っておきたい敵戦力。コクリコが質問すれば、コトネさんは分からないと首を左右に振りながら返してくる。

 現在進行で捕食にて強化しているというのは、説明にもあったからな。

 弱体化する事だけはないというのが、共通認識だ。


 コトネさんが理解している範疇では、四大聖龍リゾーマタドラゴンを自身の力で封じることが出来るだけの力は有しているということ。

 これは支配されていた火龍を目にした俺たちも分かること。

 これに加えて、聖龍たちの力も奪っていると考えていいそうだ。

 

 前魔王同様に、奪うだけで捕食しないのは、自身の体の一部を聖龍へと埋め込むことで精神支配をし、聖龍が有するプラスの力をマイナスへと変換することで、ショゴスが発生させていた瘴気の肩代わりを聖龍に行わせ、瘴気放出から解放されたショゴスは、自身の強化に専念していると考えられる。


 火龍が封じられていた場所は濃密な瘴気に覆われていたわけだが、あれはショゴスが火龍の力をマイナスにした状態だったんだな。

 ガスマスクを付けていたコクリコが、中心に進まなくても気分が悪いと言い出すくらいに濃かったからな。

 

 瘴気発生器として、神のような存在である四大聖龍リゾーマタドラゴンを利用する。とんでもないスライムだな。


「火龍の頭部に埋め込まれた黒いクリスタルがショゴスの一部って事だったんでしょうか?」


「そうです。それこそショゴスの一部です。火龍様は救い出されましたが、他の聖龍様たちは今も尚、それにより支配を受けています」


「なるほど……」

 火龍からも聞かされてはいたが、やはりと思えば返す声も重くなる。

 

 結界を解除する鍵となる前魔王を救い出し、ショゴスの一部を破壊して地龍を救わなければならないけど、支配されている状態だから、救うまでの工程で地龍との戦闘は当然、発生する。

 しかもそれを敵の拠点である魔大陸で、しかも敵要塞内で実行するわけか…………。

 救い出しても逃げ果せる事が可能なのだろうか?

 瘴気だって俺たちのいる大陸以上かもしれない、むしろ大陸全体が瘴気に覆い尽くされている可能性だってある。


 ――……ふぅ……。


「今回は、コクリコとシャルナは――――」


「もちろん行きますとも! ええ、行きますとも!」

 なんて元気な声なんでしょう。

 捏造の歴史を書き綴りたいんだね~。

 まな板は何ともお気楽だ。

 この世界の人間が瘴気を吸入すると、気分が悪くなって、最終的に凶暴化するってのを分かってて言っているのかな? 


「もちろん私も協力するよ。勇者のパーティーに加入している時点で、危険な展開は受けて立つってね」

 コクリコと同様に胸を反らして自信を漲らせるシャルナ。

 違うところがあるとするなら、胸のサイズだな。

 敵のど真ん中だってのに、この強気よ。シャルナはハイエルフで魔法も強力なのを使えるわけだが、コクリコはな~……。


「よく言ったぞ二人とも! 頼りにしている」

 ちょっとだけ炎が復活したチートさんは端っから行く気満々だし、連れて行く気満々。


「どのみち攻略をしなければならないのですからね。早い内に行動するのも良いでしょう」

 と、先生。

 魔大陸は瘴気が充満している時点で、この世界の人間達では攻略は不可能だ。

 どれだけ精兵を整えても、進行できないな地点。

 先生の言うように早い方がいいのかもな。

 後は俺の心の準備が整えばいいだけってところか。


「あの、瘴気のことを気にしているようですが、そこまでの心配はありません」

 コトネさんの説明では、瘴気は外側――つまりはこちらの大陸に向かって放出しているものであり、魔大陸には瘴気はあるにはあるが、こちらの大陸ほどではないらしい。

 それでも地龍が発生させている瘴気は、ラッテンバウル要塞一帯に蔓延しているので、そこからは大変だということだ。

 

 結局、瘴気が少ないといっても、要塞周辺がそうなら、こっちの兵を送り込んでも意味は無い。

 良くて陽動要員だろうが、兵站も確保できない大陸で、陽動を行うのは死を覚悟しての行動だろう。

 こっちの大陸だってまだゴタゴタしているからな。そもそも派兵自体が難しい。

 結局は少数精鋭になるのかな。

 

「さて、今後の活動も大体まとまってきたようですので、私も王都へと戻りたいと考えていますが、どうすれば良いでしょうか?」

 あ、そうか。どうしよう。王都まで戻ってもらうことを考えていなかった。

 プレイギアで操作する乗り物と違って、実際に運転するものは燃料がかかる使用なんだよな。

 流石にここから王都までってなると、ガソリンが持たないだろうし。


「考えていなかったようですね」


「すみません……」

 ゆったりと馬車で帰るというわけにもいかないし、


「侯爵様にお願いしましょう」

 妙案があるとコトネさん。


 ――――侯爵へと会いに行けば、いまはメイドさん達が周囲にいないからか、淋しそうにベッドで寝ていた。

 コトネさんの入室が分かれば大いに喜び、その後ろを付いてきた俺たちと目が合えば、嘘くさい咳と共に居住まいを正す。

 ゼノと侯爵は女好き。

 こういうのが体を乗っ取られた原因に繋がったと再認識だ。


「どうされました勇者殿」


「侯爵様にお願いがあります」

 深々と典雅にコトネさんが頭を下げれば、言いたいことがあるなら言いなさいと、優しい口調で手をコトネさんへと向ける。


「ワイバーンをお貸しください」


「ワイバーン?」


「ワイバーン!?」

 前者はなぜにワイバーンを借りたいのかという侯爵。

 後者は、ワイバーンというファンタジーでは竜騎士が騎乗するのでお馴染みのドラゴンの存在に、興奮してしまった俺の声。

 

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