PHASE-454【俺から迸る威光ではなかった……】

 ――コトネさんが説明をすれば、侯爵は二つ返事だった。

 崩壊寸前の王都を立て直した救国の士の為なら、どんなことでも協力すると言ってくれるあたり、この柔軟な考えと、王に対する忠誠心がこの人の本来の姿なんだろう。


「感謝します」

 礼を述べれば、侯爵は笑みと共に手を挙げての返礼。

 

 ――――コトネさん達に連れられて訪れたのは兵舎の一角。

 馬小屋のようなつくりだが、規模は二倍ほどの大きさがある厩舎。

 ギルドハウスの側にある馬小屋にもヒッポグリフが一頭いるけど、馬の居住スペースに比べると三倍ほど広いからね。

 新人冒険者も馬小屋生活をしたりするが、馬小屋カーストなんてのがあるとするなら、トップのバラモン階級は間違いなくヒッポグリフだろう。

 居住スペースが権力の証ってね。


「うわ、すげ……」

 というか、こわっ!

 馬は一頭もおらず、居住スペースにいるのは、深い青色の鱗に覆われた、全長が三、四メートルはあるだろう、首の長いドラゴンだ。

 立派な二本の角が頭に生えていて、鼻頭部分にも短剣サイズの角が生えている。


「覗いてみても」


「問題ないですよ」

 と、コトネさん。

 鉄柵と鉄柵の間から通路に頭を出しているワイバーン。

 そのワイバーンの部屋を覗いてみれば、飛膜からなる羽は胴体に沿ってたたまれている。

 コウモリでいうところの指骨もはっきりと浮き出ていた。


「フシュゥゥゥゥゥゥ――――」

 鼻から出る息が威嚇のようにも聞こえるが、コトネさんは問題ないとここでも言ってくれる。

 それどころか今鳴らした鼻息は、強い者に対しての畏敬のもので、上位の存在として見ているという事らしい。


「え、俺を!?」


「はい」


「ベルやゲッコーさんじゃなく」


「ええ、今のはトール様に対する行動です」

 ほほう。ワイバーンが俺を上の位置に見るとか。俺、やっぱり強くなっているんだな。

 ドラゴンに認められるとか、凄いじゃないですか俺!

 試しに他のワイバーンとも接してみれば、最初と同じ鼻息が返ってくる。


 ――――俺、有頂天。

 勇者兼ドラゴンルーラーとして活動しようかな。


「アレじゃないか」

 ここで、ワイバーンが俺に従順の姿勢を見せる理由が分かったとゲッコーさん。

 アレとはなんだと思えば、俺を指さしてくる。

 やっぱり俺が凄いんだと思っていれば、ゲッコーさんの食指は俺の胴体。前腕。腰に佩いている残火を差す。

 つまりは、ワイバーンは俺ではなく、四大聖龍リゾーマタドラゴンの長である火龍の鱗に対しての従順行動なのだろうと、ゲッコーさんは推理。

 

 せっかく気分をよくしている時に、そんなことを指摘するゲッコーさんに対して、俺の内に秘められた勇者としての力に反応しているんです! と、反論しようとしたら、残りのパーティーメンバーである女性陣が声を揃え「「「それだ!」」」って、どこぞのカバさんチームみたいに言うから、俺の心は大いにヘコむ。


「はい、俺じゃないですよ。火龍ですよ……。では先生、どの子がいいですか?」


「ふむふむ、どの子がいいでしょうな。コトネ殿はどの子を薦めますか?」

 どの子と言って、どの子と返ってくると、おピンク街のお店みたいだよね。

 口には出さないけど。


「皆、賢く人語を理解できるので、全員を薦めますが、帰路は安全とも言えません。このスピットワイバーンのアングラスなどどうでしょう」

 スピットワイバーン。鱗の色は普通のワイバーンと違い、赤黒い。

 特徴は、口からファイヤーボールくらいの火球を連続して吐き出すことが出来るそうだ。

 スゲーな。固有能力で、コクリコのユーティリティを崩壊させてくるワイバーンだな。

 

 この子なら無事に王都まで先生を送ってくれるだろう。

 人と荷物を乗せた状態でも長距離移動が可能とのこと。

 グリフォンやヒッポグリフに比べれば移動速度はやや劣るそうだが、長距離移動では、軍配はワイバーンに上がるそうだ。

 といっても、さほど能力に差はないそうで、好みだそうだ。

 

 幻獣と大差のない飛竜を多数飼育できる時点で、侯爵の力は絶大なのだというのが分かる。


 厩舎には現在、三十七頭のワイバーンがいるそうだ。

 三十七騎からなる飛竜騎兵隊が、大空を飛翔する姿は偉観だろうな。


 ――飛竜騎兵隊。略して竜騎兵の指揮は、侯爵が直接指揮をするそうだ。

 イリーが指揮する騎士団とは違い、竜騎兵は侯爵直属の実働部隊に位置する。

 翼幻王ジズ軍もそうだけど、やはり空はエリートの世界だな。

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