PHASE-455【難攻不落の都市になりました】
侯爵から許可が出ているとはいえ、借りれば普段騎乗している人に申し訳ないと思っていたが、竜騎兵は全員で三十人からなる部隊だそうで、残りの七頭は予備なのだそうだ。
それを聞けば借りやすいと、先生はおもむろにスピットワイバーンに跨がり手綱を引く。
馬のように
引けば起き上がるので、馬の操縦に近いようだ。
先生はヒッポグリフを多用しているのでなんの問題もなくワイバーンを居住スペースより出して、厩舎の外まで移動させる。
どっしりとした後ろ脚と、細いけど鱗に覆われ筋肉が隆起した前脚は、しっかりと自重を支えて、のしのしとした歩みで空の下にまで来れば、後は飛び立つだけ。
「あ、そうだ! まだ
「承知しました」
先生一人になったところを襲われなければいいけど。
「問題はないかと。ここより西側にはまだ展開しないように、ベスティリス様は厳命を下しておりますので」
「ベスティリス――」
初めて耳にする名前だけど、
「ベスティリス・バルフレア・エアリアス様。
ショゴスに対しては、魔王に様をつけないけど、
ゼノもクロウスも
なるほど――、美しき天女ですか――――。
「主、鼻の穴が開いてますよ」
多感な十六歳なんで。皆して冷たい目で見ないように。
キッと口元に一文字を書いて、先生を見送る。
「では主、私は現在までの状況を王に報告いたします。姫はしっかりと政務をこなしている。とだけ伝えておきましょう。それ以上の報告は、主が朗報として伝えてください」
「はい」
うむ。プレッシャーだ。
政務はしっかりとこなしている。嘘ではない。
王様が内容を耳にすれば喜ぶだろう。
悪い内容はまだ伝えなくてもいいだろう。政務はこなしている。それだけ聞けば、王様は息災だと思ってくれるだろう。
実際はヴァンピレス化しているわけだが……。
飛び立っていく先生を空の点になるまで見送れば、
「はい。と言ったな」
「なんだよベル。まるで言質取ったみたいに」
「言質で間違いない。荀彧殿に肯定の意を示したのだからな。魔大陸に行き、前魔王と地龍を救い。姫をヴァンピレス化から解放しないとな」
不敵に笑うんじゃない。
敵のど真ん中に行くと考えるだけで、胃がキリキリしてくるんだ……。
本当にストレスで、胃がエメンタールチーズになりそうだ。
「俺の部下はどうする?」
ああ、そういえば、まだプレイギアには戻していなかったな。
この地の兵士は王都と違って多いから、また
取り巻きのガーゴイルだって80を超えてたし。
「コトネさん」
「何でしょう?」
「侯爵に許可をもらえればいいのですが、俺たちが魔大陸に行っている間、この地の防衛に、こちらのゲッコーさんの部下であるアンダー・コーの百人を配置したいのですが」
「侯爵様もお喜びになります!」
操られた住民の皆さんをあっという間に拘束した手腕を目にして、何も出来なかったとメイドさん達は落ち込んでいたからな。
とんでもない実力者たちの助力を得られるとなるなら感謝しかないと、歓待にて迎えますとコトネさん。
その前に――――、
「ゲッコーさん。いいですか、同志をお借りして」
「配兵は賛成だ。あいつらなら脅威が迫っても対応してくれるはずだ。だが、歓待はいい。行き過ぎた贅は精神に脂肪をつける。この地の兵達と同じ生活環境で十分だ」
「畏まりました」
深々とコトネさんが一礼。
もしもの事があっても、S級さん達がいてくれるなら問題ないだろう。
と、思えるようになっている俺もいる。
本当は防衛が済んだらプレイギアに戻そうと考えていた。
召喚する躊躇もあったけど、ゲッコーさんに対する忠誠は絶対だから、この人がお願いすれば、それで解決だ。
素直に頼らせてもらおう。
「腕がなりますね!」
ゲッコーさんがS級さん達に指示をしてくると言い、厩舎より立ち去れば、コクリコが喜色を浮かべてこれからの事に期待を膨らませている。
敵のど真ん中に行くというのに、なぜにこんなに自信に満ちているのか、ワンドを指揮棒のように振るってご満悦。
脳天気なのはいいが、そのワンドから繰り出される魔法が、魔王護衛軍ってのに通用するとでも思っているのだろうか?
脳天気だから気にしていないのかな……。
「少数で動くんだからな。ステルスミッションみたいなもんだ。目立った行動だけはするなよ」
釘を刺せば、
「目立ってなんぼの人生なので」
「よし、お前はここに残れ!」
嫌だ! 残れ! と、ぎゃあぎゃあとした丁々発止の応酬。
うるさいとばかりに、厩舎のワイバーン達は、俺たちと反対の方に頭を向けて、少しでも騒音を耳にしないようにしていた。
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