PHASE-1426【空中を蹴る】
「フンッ!」
「ひょ!?」
刺突に続いての左手による攻撃は――拳打。
首を傾けて回避すれば、轟音が通過する。
「どうした。情けない声が続くな。それとも油断を誘っているのか?」
「そう思っていただけるなら有り難いですねっ! ――とうっ!」
左ストレートを避けつつ、身を低くしてから下方より木刀二本で切り上げ。
逆袈裟斬りにて×字を書けば、長棒を引き戻して両手で持ち、×時の中心点に柄を当てて受け止めてくる。
「ぬぅ!?」
ガルム氏から驚きの声が上がる。
「どっせい!」
気迫を込めて振り抜けば、二メートルを超える長身の両足が地面からフワリと浮き、振り抜きの勢いによって後方へ吹き飛んでくれる。
お互いに距離が出来たところで長い呼気を一つ。
これに加えてガルム氏は驚いた表情で俺を見てくる。
力で押し返されるとは思いもしていなかったようだ。
生まれた距離を利用して、一呼吸をいれる俺達とは相反し、
「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」」」」
全方位から興奮の声が上がる。
空気を揺らす大音声を耳にしながらも、向かい合う俺達は次のために集中。
次はどう攻めてくるかな?
それともこちらがどう攻めてくるかと思案か。
どちらにせよ、
「やっぱり強いよな」
「デカいのに動きが俊敏だよね」
一度交えただけでガルム氏の強さを理解したのは俺だけじゃなく、側で見るミルモンも同様。
何よりもおっかないのが、
「多分だけどまだピリアは未使用なんだろうな」
「でもそれは兄ちゃんもでしょ? それであのデカいのを吹き飛ばすんだから凄いよ!」
「有り難う。でも油断は一切できない。力もだけど、ミルモンが言うように動きが脅威だ」
ガルム氏の脚力は、巡航速度でハンヴィーと併走できるほどだからな。
これに加えて身体向上ピリアを使用しての戦いとなれば――、
「脅威だね」
「脅威となろう」
と言うのは背後から。
目の前の存在は既に俺の眼界から消えている。
ガァァァン! といった鈍くも高い音が響けば、歓声が瞬く間に静まった。
「防ぐか!」
「アクセルと上位である縮地への対応は、今までの戦闘で培ってますからね」
「だろうな」
背後からの全力による長棒の振り下ろし。
木刀二本を横に寝かせ、頭の上で構えて防ぐ。
失点があるとするなら、あれほど受けずに捌くと心がけていたのに、アクセルからの攻撃への繋げ方がスムーズすぎて対処が遅れたことだ。
「ハッ!」
「全力の泥臭い回避!」
長棒を防げば次には俺の背中に向けての蹴撃。
飛び込み前転にて難を逃れつつ、直ぐに立ち上がる。
歓声が静まったことで、ガルム氏の空を切った蹴りの威力がよく分かる。
ボフン! って音だったからな……。
当たれば内蔵が無事ではすまない……。
――それにしてもアクセルからの攻撃の繋ぎ方が上手い。俺とは大違いだ。
俺はブーステッドを使用しないと、アクセル後の体の振れ幅を抑える事が出来ない。
アクセルのみだと、重心を整えてからでないと次ぎの動作となる攻撃に移行できないからな。
その部分がタイムロスになるんだけども、ガルム氏にはそれがない。
アクセルの業前ではガルム氏に軍配があがる。
「やはり凄いな勇者。得物を叩き折るつもりで全身全霊にて振り下ろしたんだがな。それを防ぎきるとは」
「折れなかった木刀に感謝ですよ」
「自身の実力よりも先に得物に感謝。心根が清いが――」
「が――なんでしょう」
「謙虚もすぎれば成長の妨げになる!」
再びのアクセル。
正面、左右じゃない。
背後――でもない!
じゃあ――、
「上!」
――……上……。
「……いやいや! 跳躍しすぎだろう!」
余裕で防御壁の壁上に着地できるくらいの高さにいるじゃないか!
助走もなくあの跳躍。ヴィルコラクが有する筋肉だからこそ出来る芸当なのだろうか。
頭上の光景を目にしてまず思ったことは、ガルム氏のような手合いが初期の頃の王都侵攻に加わっていなくて良かったということ。
空のヒッポグリフを相手にしつつ、自分の脚力だけで易々と防御壁を乗り越えて攻撃してくるのがいたら対策も難しいものになっていた。
だが、
「凄い脚力だけども、飛行能力じゃない」
跳躍すればかならず落ちてくる。
飛行能力のある亜人とは違うのだから、ガルム氏の落下に合わせて痛打を与える! ――って考えは三流の思考。
強者が意味もなく直上を取るって事はせんよな。
こちらに迎撃を許さない方法を持っているからこそ、足場のない高所を取るということなんだろう。
「ファースン」
木刀の柄を絞るように強く握りしめている中で、上空から聞こえてくるのはピリアの発動。
「オーラアーマーか」
以前にガリオンと戦闘した時に使用してきた中位のピリア。
体内マナであるピリアを体表面に留めるという武技。
ガリオンのファースンはオレンジカラーだったけども――、
「ガルム氏は青色か」
色は違うが中身は一緒だろう。
問題は使用者の実力によって能力の差が違うということ。
ガリオンには悪いが、頭上を取っているヴィルコラクの力量は、ガリオンよりも圧倒的に上。
「マスリリース」
二本の木刀を振って迎撃の光刃を放つ。
黄色の燐光と共に軌跡を描かせながら対象へと向かっていくも、
「ふんっ!」
と、気迫溢れる長棒による横薙ぎ。
ご丁寧に長棒にもファースンを纏わせており、薙ぎ払われた光刃は霧散。
「にゃろ!」
次の迎撃のために再びマスリリースを放とうと構えたところで、
「アンリッシュ!」
「はいぃぃ!?」
地面に頭を向けた姿で、空に蹴りを入れるガルム氏。
蹴った箇所には、見えない壁があるかのようだった。
蹴りによる勢いを活かして地面――俺へと向かって頭から急降下してくるその姿は、巨大な矢を彷彿とさせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます