PHASE-1427【まずは剥がそう】

「ひょ!?」

 恰好の悪い声と同時にバックステップ。

 急降下の次には、鈍く大きな音が俺が先ほどまで立っていた位置で発生する。

 音と衝撃は大気だけでなく地面も大いに揺らす。

 この揺れは離れた位置で見ているギャラリーにも届いたようで、歓声が一転して悲鳴に変わった。

 

 ひょ!? で、すんだ俺は胆力ある方だよ……。

 なんたって目の前でその衝撃を受けてるんだからな。

 体感でも視覚でも肝を冷やされてはいるけど……。


「いやいや、なんだい今の突撃は……。地面が抉れてるじゃないか」


「なあ……」

 トロールが棍棒を振り下ろしてもああはならねえよ……。

 地面を抉る一撃は、これまで相対してきた連中の中で一番のインパクトだと思う……。


「じ、自分自身まで埋まったんじゃないの?」

 上擦った声のミルモン。

 それに反応するように、


「心配ご無用」

 土埃が濛々と舞う中、大きな陰が穿たれた地面から勢いよく飛び出してくる。

 俺の前で着地するガルム氏は、青い輝きを纏ったまま。


「土埃がまったく体に付着していないですね」


「ファースンを纏えばそんな心配はない」


「洗濯物が増えなくて奥さんも大喜びだ」


「まったくだな。大いに汚せば、大いに叱られる……」

 おう、真に迫った台詞だ。

 ガルム氏も奥さんには頭が上がらないのかもね。この世界の女性陣は強いからね。


 にしても――、


「纏ったファースンを解き放つピリアであるアンリッシュ。一対のピリアを巧みに使用しますね」

 足場のない空中での急加速である原因は、脚部に纏ったファースンをアンリッシュへと変更し、解き放ったからだろう。

 解き放つことで爆発的な加速力を得たわけだ。

 ガリオンは一対のピリアコントロールが巧みで、攻撃を受けた部分のファースンからなるオーラアーマーをアンリッシュに変更して攻撃サイドにダメージを与える攻撃反応外殻というオリジナル技であるニージュってのを使ってきたけども――、


「いやはや……ガリオン……。多分だけど、お前より扱いに長けている存在がいるようだぞ……」

 この場にいない人物に語りかける。

 技名は違うとしても、十中八九ガリオンのニージュに似たようなテクニックを使用可能と考えて対応した方がいいだろう。

 まったくもって脅威だよ……。

 単純に個人の膂力に加え、オーラアーマーであるファースンを纏っての攻撃力が馬鹿強火力なんだもの……。

 さっきのを受けていたら、一撃で戦闘不能になっていたな……。


「まだまださわり程度だ。勇者にはこちらの実力をもっと見てほしいし、体験してほしい」

 わずかなやり取りで既に満腹ですけども……。


「さわり程度だってさ。兄ちゃん……。あれでさわり程度……序の口だって……」


「てことは序二段、三段目――それ以上があるって事なんだろうな……」

 こりゃ骨が折れる。

 ガリオンを超えるコントロールを有しているとなれば、攻撃もおいそれとは出来ない。

 こちらの攻撃に反応し、カウンターであるニージュ的な技を発動されれば、接近戦による攻め方にも一手間加えないといけない。

 じゃないとダメージを受けるし、何より反動を受けて俺の動きが鈍くなるだろう。

 間違いなくガルム氏はそこを見逃さないで追撃も加えてくる。


 ――……攻め辛いな……。


「どうした? 表情が曇っているようだが」


「心の中の思いが顔に出ただけですよ」


「素直だな」

 参ったな……。

 ネイコスは使用禁止だからな。

 障壁魔法であるイグニースを利用しつつの接近戦を行えば、ニージュ的な技によるダメージも軽減できるんだけどな。

 ――……まったく……。ここにきてイグニースにばかり頼っている弱さが出ちまったじゃねえか……。

 俺もピリアの方で自分の体を防御する能力を獲得しないといけない。

 タフネスのような耐久性向上とかじゃなく、やばい一撃であっても纏ったオーラアーマーであるファースンによって体を防護。

 それがとても魅力的だというのは、目の前の存在のお陰で痛感させられる。

 

 火龍装備にイグニース。時々、ウォーターカーテン。

 これらに甘えすぎている。

 てことを毎度思う時点で、俺の成長はダメダメ。

 現在の俺の評価をレベルとして数値化すれば76。

 76とは思えないほどに習得率が低すぎるね……。

 攻撃の方はそこそこだけども、防御面をピリアでは補えていない。

 特化型よりバランス型がこういった時、対処に困らないってのも痛感する。


「構えているだけで来ないのかな?」


「誘いに乗りたくないんですけどね」


「乗ってくれてもいいんだがな。さっきからこちらからしか動いていない。勇者の動きも見せてもらいたいものだ」


「なら――」

 刮目してくれとばかりのアクセル。

 加えてインクリーズとストレインクスン。

 肉体強化と地力の倍加である後者を同時に使用してからガルム氏へと攻める。

 向かうは右手に持つ長棒からの迎撃を少しでも遅らせるために、ガルム氏の左側。

   

 でもって、


「マスリリース!」

 アクセルからの重心移動を整え、間髪入れずに右の木刀からマスリリースを放つ。


「無駄!」

 言葉通りに長棒の横凪でかき消されたところで、


「マスリリース!」

 今度は左の木刀で横一文字を書いてから即座に、


「アクセル」


「!?」

 光刃を放つと同時に俺も動く。

 光刃を追走するように移動しつつ、それを追い越してから再びガルム氏の左側に立つ。

 回避せず二度目のマスリリースも長棒での切り払いで対応したのを確認してから、


「マスリリース!」

 三度の光刃は×の字を書いてのものを零距離で。


「くぅ!」

 切り払う事で隙が生まれたガルム氏の側面に×の時が刻まれる。

 正確には纏っているファースンにだけど。

 まずは一手間かけてオーラアーマーを剥がす!

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