PHASE-1428【下らない】

 こちらが×の字を刻めば、即座に見舞われた箇所をファースンからアンリッシュに転向。

 ガリオンのオリジナルだったはずのニージュに酷似した技にて反撃されつつも――、


「そいやっ!」

 衝撃を受けて、痛みもあれば吹き飛ばされそうにもなる中、両足に根を張るイメージで踏ん張り、衝撃に耐えながら一撃を打つ。


「チッ!」

 強者であるガルム氏から聞こえてくる舌打ち。

 その舌打ちの音に近い音が、レザーローブの方からも聞こえてくる。


 つまりは――、


「かすった程度か」

 ×の字マスリリースで剥がしたオーラアーマーの部分に、右での胴打ちを見舞ってはみたものの、


「直撃――ならじ」


「だったとしても、こちらに触れてきたな……。流石と言うべきだな。出来ればこちらが先に一撃を与えたかったんだがな」

 かすった程度でしかなかったが、一撃は一撃と判断したようだ。

 だからだろう。俺に先手を取られたことが悔しかったようで、牙を軋らせていた。


「しかし、一本というにはほど遠い一撃でした」

 俺なんてニージュ(仮)でダメージを受けているし。

 ガルム氏は得物や白打によるダメージでないと納得しないようだけど。


「謙虚だな。謙虚すぎる。誇ることを知らない」


「なんだいその小馬鹿にしたような声音は!」

 ガルム氏の発言にミルモンがお怒り。


「事実を述べているだけだ使い魔よ。本来ならもっと強烈な一撃をくらっていたかもしれん。だが勇者が謙虚ゆえにこの程度ですんだ」


「なに言ってんだか」


「口で言うより実行した方が伝わるだろう」

 言いつつガルム氏、身を低くしつつ疾駆。

 アクセルを使用していないのは見て取れるが――、


「だとしても速いっての!」

 でもって、


「捕捉しづらい!」

 ガルム氏の移動は、一足飛びにて距離を一気に詰めてくるという線を書くような移動ではなく、細かな足取りでの移動。

 直線ではなくジグザグ。

 稲妻を彷彿とさせてくるフェイントによる移動。


「サッカードが過ぎるよ俺の目!」

 俺の眼球は忙しなく小刻みに動いていることだろう。

 全くもって捉えにくい!

 

 で、こちらが翻弄されていると分かったところで……、


「アクセル」

 俺との距離が縮まったところでアクセルを発動。

 背後からの気配に即反応。

 初撃の時のような受け方はせず、上段からの振り下ろしを右の木刀で受けつつ、力で受け止めるということはせず、横に寝かせた木刀の切っ先を下方へと向けて長棒をいなし、ガルム氏の体勢を崩したところで反転し、こちらもダメージ覚悟の零距離マスリリースを左で放つ。

 衝撃でファースンが薄まったところに、右の木刀にて袈裟斬りを仕掛けようとしたところで、


「あだっ!?」

 ビシンッという音が俺の左太股から響く。

 鞭で打たれたかのような痛みが走り、遅れてジンジンと熱くなる。

 体勢を崩しながらのローキックを見舞われたかと思ったが――、


「……だったな。人間とは違うんだよな」

 次なる追撃が来る前にバックステップで距離を取ったところで、鼻っ面をかすめてくるのは赤銅色の尻尾。

 コボルトであるコルレオンも尻尾を上手く使っていたけど、ヴィルコラクであるガルム氏の使い方はヤヤラッタ同様、鞭のような攻撃。

 

 火龍装備だってのにジンジンと痛みが伝わってくるのは、纏っているピリアが原因なんだろうな。


「ハッ!」


「て、またかよ……」

 体勢を整えると同時にアクセル。

 攻めてくるのはやはり背後から。

 これもいなして距離を取る。


「背後からばっかり! 卑劣の極だよ!」


「背後を取るのは戦いの基本だろう。卑劣とは言い訳でしかないぞ使い魔」


「なにおう!」


「戦いとは生きるか死ぬかだ。生き残る為には生物の弱点でもある背後を取るのは当然。そもそも背後を取られるような立ち回りしか出来ないのが悪いのだ」


「ぬぅぅぅぅぅ……」

 論破されたようで、ミルモンは言い返せない。


「だというのに勇者はそれをしない。攻めるにしても側面からばかり。別段、悪くはないが、背後から攻めてこないと分かれば、それ以外を警戒すればいいだけだから対応もしやすい」

 こちらの攻めのバリエーションが一つ消えているのは確かだからな。


「心境の変化かな? 以前はそんな事はなかったようだが。――よもや勇者たるものという矜持が芽生え、背後から襲うは卑劣。などという下らない思考になってしまったか?」


「下らないですか」


「下らないな」

 そんな事で攻撃のパターンを削るとは下らない。

 戦いに負ければ世界がショゴスの手に落ちるという状況だというのに、その下らない矜持で自身を死の縁に立たせるのは下らない。

 下らないのオンパレードに対し、言葉の応戦が出来ないのも事実。

 実際、矜持だからな。

 デミタス戦での戦いがなんとも情けない背後からの一撃による辛勝――という名の見逃してもらうという幕引き。

 

 そういった経緯があるからこそ、背後を取らなくても相手を倒せるだけの実力を得たいと決意を固めている。

 

 だが眼前の相手はそんなことはお構いなしで、


「さあ背後から狙ってこい。背後を取れるということは、それだけで実力が上回るということだ」

 強者だからこそ背後に回り込め――か。


「じゃあ、お宅は兄ちゃんより実力があるって言いたいんだね」


「――そうだな。この状況が続くようなら負けないだろう」


「兄ちゃん! あいつに圧倒的な実力差ってのを見せてあげなよ!」

 それが出来たら苦労しないよミルモン……。

 使用マナがピリアに限定されていることもあるけども、単純に膂力でも負けている。


「どうした? どうしても自分からは仕掛けづらいか? こちらの方が実力が上と判断していいかな? ならば参ったと言えばいい。ここで止めてやろう」

 両腕を広げて悠々とした姿で発してくれば、俺の代わりに挑発として受け取ったミルモンの顔面は朱の盆の如し。

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