PHASE-169【俺がスルーされるのはお約束】

「ただ山道を歩いてるだけで、賊と間違われても困るって話だよ!」


「――――で、あんた達は?」

 ぐぬぬぬぬ……。

 明らかに俺を見てからベルに話しかけたな。

 完全無視を決め込むきかな!

 なめるなよ!

 

 ベルの前へと移動してから、


「俺たちは――――」


「あんたには聞いてないよ。下っ端じゃなくて、ちゃんと話の出来る代表者に聞くから」

 カチーン。カティーンですよ。

 コクリコと対峙した時と同じ感情が湧き上がってきたよ。


 俺を見ろ! な! ゲッコーさんじゃない! 俺が代表者だ。

 分かるよ、ゲッコーさんの風格とカリスマ性は他を圧倒するからね。


 でも、俺が勇者だから。勇者トールって言われてるから。


「俺じゃないよ。以前もあったなこのくだり……。デジャブか?」

 ですね。何だろうか、このエルフだけでなく、コクリコにも以前の怒りが蘇ってくるよ。

 

 だからこそ、エルフの次の視線もすぐに理解できた。

 ベルへと向けるって事だよな。

 でもって、ベルは首を左右に振る。


 ――――ここでようやく俺だよ。

 まったく、人を外見だけで判断するとか駄目だよ。


 エルフだろ? 無駄に長く生きてるんだから、そのくらいのことは学んでいないとね。


「本当に!? 貴方が代表者なの!? 凄いね!」

 さもあろう。

 猛者二人とまな板のリーダーですよ。

 ギルドの会頭でもありますよ。


 感嘆の声を出したことで、今までの事は水に流してやろう。

 むかつくエルフから、美人エルフに位階を上げてやろうぞ。


「こんなに小さいのにまとめ役だなんて!」

 ――――…………立ち上がれば、俺を通り過ぎて、俺の後ろにいたコクリコの諸手を握って褒め称えていた。

 

 普段ならコクリコは調子に乗るが、不意打ちの尊敬にあたふたしていたよ……。

 

 このエルフ、中々に面白いボケをかましてくるね…………。

 

 ――………………Nuts!





「いまだに信じられないよ」

 山道のぼりを再開する俺たち。


 面子の中には、むかつくエルフも加わり、俺を訝しく見てくる。

 

 道すがら自己紹介はしてくれた。

 シャルナ・ファロンド。冒険者。

 

 年齢は脅威の1904歳。

 とんでもねえ年上。BBAと発言したら、しばかれるだろうな。

 

 長い歳月で研鑽をつんで神がかった技量の弓術を活かして、ハンター職で生計を立てている。

 

 瘴気が蔓延する前は、賞金首を捕らえたり、自然生物の保護に力を入れていたそうで、大陸に瘴気が蔓延している現在は、行動範囲が制限されたことから、場所を限定して後者の方に力を注いでいるそうだ。


 いままで蔓延していた瘴気が原因で、クレトスには長期滞在となったが、この山に生息するケーニッヒス・ティーガーを密漁から守ることに従事出来るのは幸いだったそうだ。

 長期滞在のおかげで、ワックさんを狙う山賊たちの迎撃にも一役買ったわけだ。


 希少動物の保護に村の警備。立派なことではあるが、今の俺はシャルナに対して、不快な気持ちしかない。


「ねえ、本当に勇者なの? 信じられない」


「しつこいな!」

 ずっと聞いてきやがる。


「六花のマントを見ろ。冒険者なら、俺たちの活躍くらいは少しは耳にした事――――」

 ないか……。

 だって、ここは瘴気によって他と隔絶してた状況だったんだもんな。


「六花のマントの事は知ってる。長く生きてれば、そういうのは知っていて当然の代物だから。貴男が持ってることが信じられないの」


「信じられないって連呼するな!」

 しつこいというより、好奇心なのだろうか? 長い耳をパタパタとせわしく上下させて聞いてくるところはむかつくが、不覚にも可愛いと思ってしまう俺がいる。


「まあまあ、これから頑張ればいいんですよ」

 うぜ~。

 いま現在、一番うっとうしいのはコクリコだ。

 

 シャルナに勘違いされてから、自分がこのパーティーのまとめ役だと勘違いしてやがる。

 これだからちびっ子は困るんだ。

 

 何でもかんでも真に受けやがって!

 

 軽い足取りで俺たちの先頭を進む姿。

 俺たちを完全に従者と思い込んでいやがる!


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