PHASE-623【強制加入】

「ちょっと待ってくれる。なんで私が勇者の仲間に?」


「違うのですか?」


「う……。なんなのよその曇りない真っ直ぐな目は」

 そこはアンデッド、乙女の汚れなき瞳による凝視は苦手なご様子。

 姫の凝視に魔道師最高位のネクロマンサーが後退りだ。


「私はトール様とリン様が手を取り合って、この世界を平和に変えてくれると信じています」

 魔王軍の驚異から人々を守ろうとする拠点を建設しているほどの正義の志をもつ人物なのだから、同じ正義であり、力を認めた勇者と行動するのだと姫は完全に思い込んでいる。


「そうなのですよ――ね?」

 返事がないから、不安にかられた姫がウルウルとした瞳でリンを更に凝視。


「やめなさい……。そんな目で見ないで……」

 おお。アルトラリッチが気圧されている。

 ベル以外の女性にも気圧されるんだな。


「トール様。そうなのですよね?」


「――――そうだよ」

 平然と肯定で返した俺は、きっと悪い笑みを湛えていた事だろう。


「な!? なんでそうなるのよ!」

 まあ既成事実でネクロマンサーが仲間になったら今後の展開が楽だからね。


「喜ばしい事ですね。トール様」


「マッタクダヨ。強クテ頼リニナル、新シイ仲間サ。ハハハハハハ――」


「抑揚をつけなさい!」

 焦るリンをほっといて、俺と姫だけで話を進めていく。


「ほら、貴女たちも私といるのは嫌なんじゃないかしら!」

 おっとここでコクリコとシャルナに話を振るか。

 確かにその二人はリンの事を嫌がるだろう。


「私は祝賀会に出される豪華な食事が気になっているので、どうでもいいです」


「はぁ!? 何よその訳の分からない言い分は」


「まあ、冗談はさておき。うちのリーダーが決めたなら、私はそれに従いますよ」


「あら! どうしたのコクリコ」

 俺がビックリだよ。


「今回の戦いで私を信じてくれましたからね。ならば私もトールの判断を信じます」

 いいよ。育ってきているじゃないか。あれか? 俺に惚れたか?


「本心は嫌だけど、トールが決めたらな私も我慢するよ」

 おばあさま発言を未だに根に持っているご様子。

 コクリコの方が大人だな。十三歳に負けてるぞ、約千九百歳のエルフよ。


「素晴らしいですね。トール様たちの新たなるお仲間が、偉大なる大英雄様とは」


「ちょっと待ってよ! 私は――」


「いや~。戦闘が楽になりそうだ」


「これから宜しく頼む」

 悪い笑みを湛えたゲッコーさんと、真顔のベルがリンの背後に立てば、


「……ああ……はぃ……」

 断る事なんて出来ないんだよ。リンさん。

 首を縦に振らないと、先には進まないってことですわ。

 やっておいてなんだが、なんだろう――この手法。

 飲み物の氷に、十万くらいの代金を請求する、ぼったくりバーが真っ先に思い浮かんだ。


「さあ、仲間となった以上は色々と協力してもらいますよ、リン・クライツレン! 魔力向上のタリスマンとか作れるんでしょう! 立派なオベリスクが作れるんですからね。期待してますよ! 材料なら侯爵に頼めば直ぐに揃えてくれると思います。私専用のタリスマンを作るのです!」

 一瞬でもコクリコを良い子だと思った俺が愚かだった……。

 これが仲間にする目的か。

 自分の魔力向上の為に、リンの技術を欲したわけだな……。


  

 ――――既成事実のために用意されたかのような祝賀会は、なんとも豪華なものだった。

 リズベッドとリンはやっぱり面識があったようで、話が弾んでいた。

 双方ともに強力な魔法を無詠唱で発動するだけの実力者。話に入るのはおこがましいとばかりに、遠巻きに眺めるだけのお偉いさん達が印象的だった。

 姫ももちろん参加しており、背格好が近いからリズベッドとは仲がいい。

 加えてそこにコクリコも入るという状況。

 なぜか一番威張っているのがコクリコさん。コンプライアンス重視だからな。祝賀会、無礼講となっているので調子に乗るのには目をつぶるが、悪のりだけはしないでくれと祈っている。

 

 ありがたかったのは、オムニガルの存在だ。

 リンと一緒に祝賀会に参加。調子に乗るコクリコを茶化すように冷や水を浴びせていた。

 調子に乗っちゃ駄目だよ。立場が違いすぎるよ。あの程度で私を倒したとか勘違いしちゃ駄目! と、最後は負けた悔しさをこぼしていた。

 ゴーストだけど、正確は負けず嫌いな女の子みたいだ。

 

 いつ何時、誰の挑戦でも受ける。と、悔しそうなオムニガルに対して笑みを湛えて言うあたり、自分が強者の立ち位置だと思い込んでいるコクリコ。

 現状、魔法の実力は、オムニガルに圧倒的に負けてんだけどな。

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