PHASE-460【海中攻撃が出来なくても強いもんは強い】

「本当にクラーケンなのでしょうか」

 ランシェルの声は上擦ったものだ。

 不安になりながらも、ランシェルは迫ってくる方向を凝視。

 やはりクラーケンは海の頂点に君臨する存在のようで、魔王軍であっても驚異の対象のようだ。


「海が光りました! あの輝き。クラーケンで間違いないです」

 ランシェルの大音声に、甲板でリラックスしていたシャルナとコクリコにも緊張がはしる。

 シャルナが余計なフラグを立てるから。


「お! 更に後方に反応。数、七。小さいからサハギンとかかも」

 クラーケンに付き従っている連中と考えるべきかな?

 敵が増えればシャルナが更に慌て、美しい金色の髪を靡かせながら、甲板を右往左往していた。


「と、とりあえず落ち着きましょう」

 言ってるコクリコも慌てている。

 甲板上の二人のやり取りはまるでコントだ。

 ランシェルには得意げにミズーリを紹介していたのに、この慌てふためきようたるや。


「トール。もちろん魚雷は?」


「ゲッコーさん――――もちろん備わってませんよ。ミズーリですよ」

 トマホークとハープーンからなるミサイルは積んでいるけどね。

 オフラインならまだしも、オンラインPVPで、戦艦が魚雷装備したらチートだからね。

 駆逐艦が息しなくなるから。


「やっぱり雪風がよかったんじゃないのか」

 ですね。こういう時は魚雷が撃てる駆逐艦がいいな。


「これは思わぬ弱点だな。接近されれば弱いと言うことか」

 いやいやベルさん。このミズーリをなめてもらっては困る。


「ようはあのデカい反応を近づけさせなければ良いだけだし。近づいたとしても――――」

 右舷を一時方向に向けつつ、R1トリガーを押し続ければ、それに連動し、主砲50口径40.6cmからなる、船首側三連装砲塔二基と、船尾側三連装砲塔一基の合計九門の長砲身が可動する。


「全員艦内に入れ」

 轟音と衝撃を経験しているコクリコは、シャルナの手を取り、急いで甲板から艦内へと移動。

 露天艦橋にいた俺たちも、艦橋へと移動する。

 反応がもっとも近くなったところで――――、


「主砲発射!」

 ロックオンのためのL2トリガーは使用せず、R2トリガーだけを引く。

 ――――九度の轟音。

 赤く輝く煙を長砲身が勢いよく吐き出せば、発射の衝撃により、砲塔下部に位置する海面が、扇状に放射しながら大きく抉れる。

 ――――弾頭は当たっておらず、ディスプレイにはMissと表示。

 が、当たらなくてもいい。これはゲームじゃなく現実だからな。

 衝撃も立派なダメージになるはず。

 海面を抉る衝撃。接近してきたクラーケンには可哀想だが――、


「やるな」

 よき戦術だとゲッコーさんの称賛。

 露天艦橋に戻り海面を確認。

 クラーケンが力なく、ぐったりとした姿で海面に浮かんでいた。

 前回はディスプレイ越しだったが、生で見るクラーケンは存外小さい。

 あの時のはシーゴーレムと同じくらいか、それよりも大きかった。

 このクラーケンは子供だろうか?

 たとえ子供だとしても、こんなのに襲われたら、この世界の船だとあっという間にバラバラにされて、沈むだろうな。

 でもって……、臭い。

 ベルがイカ臭いと言っていたが、想像以上だ。

 ただでさえヌルヌルが苦手なベルが、こんなのに一時の間でも拘束されてしまってたんだからな。感情を抑えきれずに、青い炎を使用してしまうのも仕方のないことだ。


 臭いはきついが収穫もあった。主砲である40.6㎝砲は、発射が生み出す衝撃も強力な武器となる事が立証されたからな。

 艦橋にいても、体の芯に届く衝撃は流石の一言。

 

 さて、残るは小さなサイズの反応が七つ。

 大きな反応がディスプレイから消えたから、クラーケンは戦闘不能という意味だろう。

 痙攣はしているから死んではいないようだが。


 七つの反応は九つの轟音が響いたあと、動きがピタリと止まった。

 このまま立ち去ってくれればいいんだけどな。

 そもそもクラーケンがやられる巨大な存在を目の当たりにしたら、普通は一目散に逃げを選択するはず。


 ――――海中に留まって熟考しているように動きがないのが、ミニマップで推測できる。

 立ち去れと願っていたが、残念ながらこちらに向かって動き出す。

 まったく――――、


「七つの反応はこっちに迫ってきてます。攻めてきたら各自で対応を」

 もう一度、主砲の一斉射で海面を抉っての衝撃でダメージを与えてもいいが、迫ってくるなら正体も知りたい。

 相手は七体と、こちらより数では一つ多いが、正体だけでなく、この海域の敵性の実力も知っておきたいから、艦上で迎え撃ちたい。


「では出よう」

 最強であるベルが一言つげて甲板へと飛び降りる。

 俺たちも右舷側に移動し、海面に映る影をしっかりと捉えた。

 影は徐々に大きくなる。海中から海面に近づいている証拠。

 ほどなくして、ミズーリの右舷付近から海上へと飛び出してきた。


「あれは――?」

 上半身はサハギンみたいな半魚人。

 だが下半身はサハギンとは別物。人魚みたいに魚の尾びれからなっている。

 腰部分には、胸びれのような形状のひれがあり、翼のように発達している。

 発達した腰部分のひれを羽ばたかせて飛翔するモンスター。

 ひれ部分は刺々しくて禍々しい、善悪で例えるなら間違いなく後者の風体である。

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