レティアラ大陸

PHASE-459【出航、魔大陸】

「いや、本当になんなのコレ……。こんな巨大な船が存在するなんて」


「ま、まあ、シャルナ。とりあえず乗りましょう。ミズーリに乗れば、快適な船旅が可能です。この船に敵なしですから」

 戦艦の説明は出来なくても、安心安全の航海を約束するコクリコの太鼓判。


「話には聞いていたけど、この船ならシーゴーレムも倒せるってのも頷けるよ。こんな鉄の塊がぶつかれば、ひとたまりもないよね」

 そんな戦い方をした覚えはねえ……。

 質量アタックなんてしたくもないよ。艦に傷が付くからな――――。

 オドオドとしているシャルナをベルが優しく誘導していた。

 森の賢者であり、自然と共に生きるエルフには、巨大な鉄の塊という存在が恐怖のようだ。


「――――では、出航」

 六人で乗艦後、露天艦橋でプレイギアにて操作する。

 ミズーリが動き出せば、シャルナは沈まないよね! と、ベルにしがみついて問うている。

 流石のベルも苦笑いだ。


「それで操舵を行うのですね」


「ああ」

 反面ランシェルは、初めての経験なのに落ち着いている。

 聞いてみると、魔大陸からこっちの大陸に移動する時、これより一回り小さい大型シーゴーレムに乗ってきたとのこと。


「そんなのがあるんだな」

 気になるゲッコーさんが質問すれば、


溟海王レヴィアタンであるガンフィア様が乗船する、専用の大型シーゴーレム、バテン・カイトスに乗せていただき、我々メイド達はカルディア大陸に上陸しました」


「海の怪物の腹を冠するシーゴーレムか」


「はい。大軍を乗せ、海中を移動する事が可能です」


「さながら潜水艦と機動揚陸艇のハイブリッドだな」


「潜水艦とか困りますよ。ミズーリには対潜能力はないですよ」


「だったら陽炎型八番艦の雪風でも召喚したらどうだ。幸運の駆逐艦なら問題なく対応できるだろう」


「確かに」


「確かに……か……。召喚できるんだな……雪風。なんでも有りだな。トールは」

 おっと、ゲッコーさんが俺に対して、些かおののいておりますな。

 実際になんでも有りで使用出来るなら困らないんだけど……。

 個人の力が伸びるわけじゃないから、使用はひかえさせてもらいますがね。

 自分を強くするって思いのほうが優先される俺も、人間として成長しているんだろうな――――。



「快適ですね!」

 出航して一時間ばかりが経過。

 甲板に移動したコクリコが大きく深呼吸をしている。

 海岸より出港したミズーリは、南西に向かって移動する。

 瘴気のない航海である。


「天気晴朗、波も低し」


「秋山真之みたいだな」

 暇そうなゲッコーさんは、俺の隣で煙草が恋人。

 受動喫煙を強いられる身としては、裁判を起こしたい。


「ねえ! トール」


「なんだ?」

 甲板から両手を口に沿わせて大声のシャルナ。

 声音はウキウキとしたもの。最初は怖がっていたけど、慣れは早く、ミズーリによる航海を楽しんでいる。


「なにも起こらずに進んで快適だね。もっと辛い航海になると思っていたんだけどさ。こんなに大きいと襲ってくるモンスターもいないよね」

 ――…………。


「なんでお前はそんなフラグをおっ立てるような事を言うんだよ!」

 にこやかな表情なのはいいけど、聞かされるこっちが不安になるような事を言わないでくれるかな。


「ん?」

 ほら、言ったそばから同じ露天艦橋で、周囲の警戒をしてくれていたベルが何かに気付いたよ。

 ああ、やだやだ……。


「一時方向。わずかだが水柱が上がった。距離にして――――五百だぞ」

 ありがたいね。メートルの部分を強調して言ってくれる。マイルやノットで言われても分からないからな。

 

 五百。確かにディスプレイ上のミニマップに目をやれば――、反応がある。

 しかも赤点での表示。間違いなく敵性だ。

 これ便利だな。海上だけでなく、海中にいても簡単に見つけることができるなんて。

 でも、今の今までミニマップに目を向けてなかった事は、ベルには言わないでおこう。


「五百ってかなり近いな。見落としていたか?」

 いちいち言わなくていいです。

 ゲッコーさんが余計な事をいうから、たるんでいると、結局ベルに怒られてしまった。


「反応が大きいぞ。シーゴーレムみたいだ。でも海中だからな。クラーケンかな?」


「う……」

 敵性モンスターの予想を口に出せば、嫌な記憶が甦った様子の中佐殿。

 ヌルヌル、テラテラにまみれたもんね。あれは――――、とってもエロかった。

 一人になった時こっそりと、あの白濁ヌルヌルな動画を見ようかな……。

 こんな状況下で有りながら、仄暗い色欲に支配されるこの余裕。

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