PHASE-297【はい、パターン入りました】
「おのれ! どいつもこいつも!」
周囲に睨みを利かせるも、紅に染まった肌と、八の字を書いた眉でやったところで効果はない。
野郎達は、普段べらぼうに強いベルが見せる弱々しい姿を目に収める事が出来てたまらないのか、余計に興奮した声を上げる。
結果、それを耳にするベルの動きは、鈍さに拍車をかけることになる。
「この勝負、見えたな」
「生意気を言うな!」
ミズーリの時は捨て鉢みないな感じで、レゾンの人達の前で行動していたが、今回は見る奴らの殆どが邪な視線だからな。
恥ずかしすぎて捨て鉢にもなれないか。
お! そうだ。
「俺の勝利で終わったら、その姿で一日世話をしてもらおう。その時はここにいる野郎達にも酒を注ぐんだぞ」
「「「「イィィィィィィィィハァァァァァァァァァァ!!!!」」」」
発言を耳にして野郎達が雄叫びを上げ、アバカンコールは天井知らずとばかりに熱を増していく。
周囲の女性陣も熱さに負けて静まりかえっている。
「ええい……」
おやおや、随分と弱々しい声を出すじゃないか。
しおらしくて今日のベルさんは可愛いですね~。
ついでだ。これで勝利したら、風紀委員なんてくだらん組織は解た――――い?
「ベル!」
勝てるつもりのなかった戦いに勝てそうになった時、突如としてベルへと、なにやら纏められた物が投げ込まれた。
声と共にそれを実行したのはシャルナ。
遅れて登場とばかりに、余計なことをしてくれる!
「何してんだコラ! 戦いに茶々を入れるんじゃねえ!」
「ベルは私たち風紀委員の長。味方して当然。トールだって自分の精神状態を有利にするために、周囲を煽ってるじゃない! トールが男達を味方に取り込むなら、ここに集まった女性陣はベルの味方だよ!」
――…………ええい! コクリコに続いてまたも邪魔が入るとは!
静まりかえっていた女性陣に活気が戻ってきやがった!
シャルナ――――!
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
――……叫んで分かることは、完全に悪役の叫びだってこと。
しかも、敗北前によく目にする光景の時の叫びだ…………。
主人公にトドメという時に、主人公の味方によって形勢が逆転する時、悪役がよく叫ぶやつですわ。
叫び終わるのを待ったかのように、俺が発するのを終えたと同時に、バサッと音が聞こえる。
それは纏められた布が広がったかのような音に似ていた……。
音はベルの方からだ。
――……一瞬で悟るよね。音の正体を……。
そしてベルが何を纏ったかを……。
バサッは、俺に敗北を伝える破滅の音……。
シャルナに向けていた頭をゆっくりと可動させて、ベルの方を向く。
可動させるこの間、俺の頭内では可動する首に合わせて、キィ~っと、注油が必要であろう軋んだ音が……したように思えたんだ……。
それくらいゆっくりとした首の動き。
それくらい今から目にする現実と向き合いたくなかったわけだ……。
「……はぁ!?」
素っ頓狂な声を出してしまう。
目の前にはマントを纏ったバニー中佐の姿。
バニーの部分が隠されてしまっている。
やはりベルの感情と同期しているのか、先ほどまで項垂れていたうさ耳は、ピンッと天を貫くかのように真っ直ぐに立っている。
倚天とは正にこの事。
エメラルドグリーンの瞳には、今は使えない劫火が宿っておられます……。
「お前――――は!」
「使っていいって言ったもん!」
即座に切り返す俺。
「認めてやる。だが、なぜ負ければお前たち男に傅かねばならん。お前の考えている邪なお店を体験させるつもりか?」
眼力だけでなく、歩く姿も力強いベルさん。
やばい……。
これ……、パターン入りましたわ。
覆轍を踏みながら、二の舞を演じてしまったな……。俺。
あれですな。調子に乗る自分を制御できなかったのが敗因でしょうかね……。
――……みじけ~天下だったぜ…………。
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