PHASE-59【ボス戦開始】
農耕馬みたいなのにメチャクチャ脚が速い! 襲歩の迫力たるや、蹄が地面に触れる度に、土はスコップで豪快に掘っているかのように舞い上がり、地響きはまるで地震の如きだ。
踏ん張って立たないと尻餅つきそうだ。
で、馬上のでっかいのに、俺はどうやって対応すればいいのかな?
「ぬう!?」
考えてたら、心配ないとばかりに、ベルの炎がホブゴブリンを包む。
流石にベルの炎が直撃すれば――――、
なんて思いつつ目で追う。
追う視線は、ホブゴブリンが跳躍して着地するまで続いた。
ズムンッ! すんごい重量感のある音の着地だ。
着地でずれたのか、牛の角みたいなデザインの兜を整えている。
「おのれ女!」
怒りでハルバートをベルへと向けるも、
「う……」
炎に支配された一帯に佇み、エメラルドグリーンの瞳がホブゴブリンを見つめれば、この敵軍の司令官も本能で悟ったのかもしれないな――。
――アレには勝てないって。
怖じけるようにベルの視線から顔をそらした。
「トール」
「なんだ?」
「お前がこの軍の大将を倒すと宣言したからな。条件だけは同じにしてやった」
ああ、うん……。別にバイコーンと一緒に倒してくれても良かったんだけどね。
ありがたいお膳立てだよ。
「よぉぉし! こいや!」
こうなりゃ戦って勝つ。勝って、王都の人々に自信を与えるんだ!
「よく言った!」
更にベルは一騎討ちに邪魔が入らないようにとばかりに、炎で壁を作り出す。
――……あのベルさん……。これだと、俺も何かあった時に、逃げられないんですけど…………。
「勝ってみせろ」
炎の壁向こうからそんな声が聞こえました……。
「息子の仇を取らせてもらう」
「そういう感情があるなら、話し合いも出来ただろうに」
「黙れ! 貴様ら人間は亜人を見下す。【そういう感情があるなら】という発言が、我々、亜人を見下している証拠だ。長い歴史の間に募らせた負の感情。その感情を生み出させた事で、人間は多くの敵を作ったのだ! 我らに戦う志を与えてくださった魔王様こそ、この世界の主として君臨するべきなのだ。戦後の人間は、我らが玩具にしてくれる」
「後半の発言で、前半の内容は無駄になったな。結局はお前等も同じことをするって事だろ。ただの意趣返しじゃないか。負の連鎖を自分たちで止められない奴らが、偉そうに口上を述べんな」
この世界の歴史なんて知らない。
きっと、俺たちの世界のように人種差別もあるはずだ。
特にこの世界は肌の色とかじゃなく、種族間での軋轢があるんだろう。
あっちの言い分も分からないではないが、ここに来て初めて目にした光景が、女性を連れ去っている姿だったし、砦においても人間憎しというより、快楽重視だったからな。
玩具あつかいな発言で、ああいった光景が脳内に映し出される。
「やっぱり、お前等の考えは理解したくないね」
「ならば死ぬがいい」
「端から命とるつもりだっただろうが」
巨躯であるのに、なかなかに速い動きだ。ハルバートの斧部分で斬られたら、俺の体なんて簡単に真っ二つだな。
それどころか、打ち込まれたところからミンチになるかもな……。
現状、俺のレベルは2だそうだし。
この戦場で、オークとゴブリンを合わせて三体倒したから、レベル少しは上がらないのか?
などと考える余裕がある自分に驚くね。
デカい割に動きは速いが、ベルの速さを知っているからか、脅威に感じない。
手に持っている代物は目にするだけで、背筋が凍りそうなおっかない利器なのにな。
異世界での初めての強敵は、俺が息子の仇なんだよな……。
まるで俺が悪役だよ。
「このバロルドが勇者を冥府へと送る」
発言と同時に、ハルバートが真上から振り下ろされる。
「ふっ」
腹式呼吸による大きめの呼気を一つ。
振り下ろされるハルバートを後ろ斜めに体を移動させて躱す。
「ほう、我が一撃を躱すか」
確かに速い振り下ろしだが、躱せない程度じゃない。
力任せなだけの一撃。
ご自慢の膂力だけでいままで勝ち抜いて、幹部になったようだな。
脇をしめてない、無駄のある振り下ろしだ。
こちとら得意なのは上段の構えだ。その辺の姿勢にはうるさいぞ。
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