PHASE-60【剣道三倍段】

「楽には死なせんぞ」


「当ててから言いな」

 お、今の俺、ちょっと格好良かった気がする。

 こんな余裕を持てるのも、戦いの場に慣れてきたからかな。嫌なもんだけども、体が硬くなって何も出来なくなるよりはいい。

 ま、慣れすぎて油断するのも駄目だけども。

 さて、相手は三メートルはあるだろうポールウエポンのハルバート。

 剣道三倍段で考えると、相手は六段と考えるべきか。

 中三で二段に昇段して、その後はそれに満足して、高校になってからはだらけてたからな。

 今になって、真面目にひたむきにやってりゃよかったなと思うよ。

 剣道にだけ打ち込んでいたら、蝉に驚いて死ぬってルートも回避できただろうし。

 ――――構えはまたも上段か。

 一撃必殺の超重武器。

 立木に示現流もどきをやっていたが、相手も二の太刀いらずを地で行くな。

 今日まで刀の重さに近い、一キロほどある木刀を俺も必死に振ってたわけだが、もどきには頼らず、ここは相手との距離を測り、且つ、攻防に秀でた正眼の構えで備えて、隙が生じたところで、得意な上段で決める。


「もう一度だ! ふん!」

 ズン! 足裁きで横に移動すれば、先ほどまで立っていた所に斧がめり込む。音だけで恐怖が襲ってきそうだけども、最初の一撃より見えてきてる。

 後方でなく横への回避が出来るのは大きい。そのままカウンターが狙えるからな。


「ええい!」

 苛立っている。

 更に三度目。それも横移動で躱す。そして、このタイミングを逃さないように、


「せい」

 上段の構えに変えて、素早く近づき振り下ろす。

 ――キンッ!


「おのれ!」


「くそ!」

 お互いに苛立つ声を出す。

 バロルドなんちゃらは俺の攻撃を受けたことに苛立ち、俺は手甲で簡単に防がれたことに苛立つ。

 重装備の手甲となると、もはや盾だな。

 腕がまる出しなんだから、上腕を狙うべきだったが、いかんせん身長差と武器のリーチ差で踏み込む距離が長くなるからな。上を狙いすぎれば隙に繋がる。


「よくやる」

 褒めてもらって光栄だよ。正直、自分でも驚くくらいに体が動く。

 奇跡の御業なんてマッチポンプで、人々の心を掴んだ責任もあるから、練習に力をいれてよかった。

 ベルからは猿叫に対して、嘲笑を受けてたけども……。

 ――……ベルめ! いつか俺も恥ずかしい思いをさせてやるからな。

 でもって、報復を食らうというバッドエンドが見えるな。


「――ハハ――――」


「何がおかしい?」


「いや~。デカくておっかないけども、あんた以上におっかないのを知ってるからな。どおりであんたに対して、心底怖いってのは感じないんだな」


「なめおって! 仇の分際で」


「俺は苦しんだよ。あんたの息子を斬ってね。あんたはどうだ? 人を殺めて苦しんだか?」


「愉悦しかない」


「そうかよ、悪いとは思うけど、絶対に負けられないね」

 力は十分。振り下ろす速さもすごい。リーチもある。

 だけど、肝心の基本がなっていない。

 どれだけ振り回しても、これなら当たらない自信がある。

 抵抗しない相手ばかりを狙ってたんだろうというのが、一撃一撃から理解できる。

 コイツは自分より弱い奴としか戦ったことがないんだろうな。


「――――ふぅぅぅぅぅぅぅ」

 長い呼気をする。

 結構な攻撃を躱してきた。

 チャンスには斬り込んだが、纏った装備が刃を通さない。

 狙えるポイントも理解はしているけども、そこまでの隙が出来ない。

 だが――――、


「ふう、ふぅ、ふう……」

 バロルドは大きく肩で息をし始める。

 いくら力があっても、無駄の多い振りは無駄に体力も消耗するもんだ。加えて武器も鎧も重量級だからな。消耗は思った以上だろう。

 相手としては、俺程度ならすぐに片が付くと思ってたかもしれない。

 恨みがあったとはいえ、一騎討ちを挑むのは、勝てると踏んだからだろう。

 その考えが

 ――……あれ? やられ役のボスキャラみたいな事を考えてしまったな。


「一騎討ちを仕掛けて来たこと、勇者とはいえ、仕掛けて来た

 ほら! 俺が頭の中で思ってたことをコイツ言ったよ。

 俺と同じで、やられ役の素質があるよ。

 などと、馬鹿なことを考えつつも回避に専念。

 初手と違い、明らかに動きに散漫さが見られる。これならいけるな。

 

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