PHASE-58【仇】

 さてと――、俺も行くか。

 ベルのおかげで道は出来ている。

 鞘に手を添えつつ走る。


「見ろ! 勇者様だ!」

 と、背後から誰かがそう言えば、「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」」」」と、怒号にも似た歓声が上がった。

 こうやって、勇者が大軍に攻めていく光景も、人々を奮い立たせるための演出としては必要なんだろう。

 刀を振って爆発を起こすような仕草から始まり。ペテンで人々の心を掌握する。カルト教団の教祖になった気分だよ。


「――ごめんよ」

 前方で炎に混乱するオークの側面に、刀を鞘から走らせて、両手で握り胴を斬る。


「ギャ!?」

 短い断末魔と共に、オークが倒れた。

 初めて戦った時は、棒切れで倒すことも出来なかったけど、刀なら、簡単に命を奪える。

 斬る時の肉に触れる感触は、やはり気持ち悪い……。

 初めて殺めたゴブリンの時の感触を思い出せば、背筋が寒くなる。

 その悪寒も背負って、これからはやっていかないといけない。

 覚悟を決めて、次の子供サイズのゴブリンに対しては、下方からの斬り上げ。

 背が低い分、上段からの振り下ろしより、下方からの斬り上げの方が、こちらの隙が生じにくい。

 小柄のゴブリンが、俺の一太刀で宙に舞う。声も無く事切れた。


『お見事だ』


「どうも……」

 ゲッコーさんは褒めてくれるけども、俺としてはこの手に伝わる感覚が、体に纏わり付いてくるのが気持ち悪い……。


「ろくな死に方しないよな。俺も」


「キャァァァア!」


「って、一回死んでるけどな!」

 叫び跳躍して、ショートソードの切っ先を向けてきたゴブリンには、リーチ差で優位に立てる突きを打ち込んだ。

 腹部を貫き、すぐに抜けば、ピクピクとしながら倒れ込む。

 これでこの戦場で三体を倒した。

 一気に攻めてこないのは、やはり敵の混乱が大きいおかげだな。

 一対一なら俺でも何とかなる。

 このまま一気にど真ん中だ。ベルが道を開いてくれているから助かる。


『一気に駆けろ』

 走り出せば、俺に迫ってくるゴブリンやオーク。

 それらが全て頭を撃ち抜かれていく。

 伝説の兵士が後方で、狙撃銃ツァスタバ M91を使用してくれれば、正面だけに集中できる。ベル同様にありがたいことだ。


「来たか!」

 うっは! でけー! 近くで見ると更にでかい。

 バイコーンってのに乗ってるから迫力が凄い。


「正に世紀末覇者」


「訳の分からんことを! 単身でここに立つことは褒めてやりたいが、貴様には賛辞を送れん」


「なんだよ。その異様なくらいの憤慨した感情は。なぜに俺を目の敵にしてるんだ?」

 俺が勇者だからか? だとしても、この恨み辛みの憤怒の瞳。血走ってるぞ……。


「わからんか!」

 バイコーンに備えていた三メートルはあるハルバートを人間の頭くらいはありそうな拳で握り、諸手で持つと、頭上でグルグル回し始めた。

 ブンブンではなくブォンブォンと、豪快な音だ。


「――――先遣隊には我が子がいた」

 !? なんだこの流れは……。


「撤退した兵から聞いたぞ! 貴様が我が子を斬り殺したとな」

 女の子に斬りかかろうとしたあいつか……。

 人語を話せたのは、父親譲りって事か。

 あいつはゴブリンの上位種だったんだな。


「許せん! 貴様と同胞たちの血を我が子の墓に大いにかけてやろう」


「んなもん喜ぶかよ! お前等も散々と恨みを買うような行為をしておいて、どの口が言ってんだ!」


「この口よ! 勝利者と敗者を同じ物差しで測ろうとするな」

 なんてエゴ!

 エゴの塊みたいなホブゴブリンが、頭上で回していたハルバートを構えると、バイコーンを竿立ちさせ、前脚が地面に付けば、それを推進力として、俺へと一直線に攻めてくる。

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