PHASE-1514【連携が絶技】

 ――炎と風が交差して生じた小さな炎の竜巻。

 その光景に新たなインスピレーションが湧くが、まずは眼前の脅威に集中!


「はぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 全膂力にて書く×の字の斬撃は、アドゥサルが振り上げた左腕よりも速く相対する者の上半身に届く。


「ぬぅぅぅ……。が、その程度では我が魂までは届かぬ!」

 タフだな。でもって台詞も格好いい。

 振り上げる左手に持たれた手斧。

 魂まで届けることが出来なかった俺の頭部に向けて振り下ろそうとするが、蛤刃が届くことはなかった。

 

 俺が胸部から胴体部にかけて深手を負わせるのに合わせて、ルインリーダーが跳躍からの赤黒い光を纏わせたロングソードで横一文字。

 バックラー形状の籠手部分を避けて、手の甲を狙っての横一文字だった。

 手にしていた手斧。拇指……。そして手の甲と繋がったまま残りの四本の指も宙に舞う。


「がぁぁぁぁあ!」

 痛み――だけでなく裂帛の気迫。

 両手が駄目でも鋭い爪のある羽と強靱な尻尾がまだある! とばかりに、大きく動かし振り回す――ところに、俺は臆せず前へと足を踏み出す。

 信じてるからね!


「おのれぇぇぇぇぇ!」

 気迫の語気のままに悔しさを吐き出すアドゥサル。

 ピルグリムによるプロテクションが羽と尻尾を受け止めてくれた。

 攻撃を受け止め、弾くのを確認したところで障壁が役目を終えたとばかりに消滅。

 この絶妙なタイミングよ!

 ルインリーダーと生徒会長戦の時を思い出させてくれる技巧。

 俺を守りつつも、俺の移動の妨げにならないように、間合いへと入り込む時には直ぐさま障壁を消してくれる。

 

 ピルグリムのタイミングの見計らい方は絶技とも言える。その恩恵を受けて懐へと入り込むところで、再度の羽と尻尾による迎撃を放ってくるも、


「ぎぃぃぃいぃぃぃい!?」

 これまた絶妙なタイミングでルインリーダーとエルダーによる背後への斬撃。

 ルインリーダーだけでなく、エルダーもロングソードに赤黒い輝きを纏わせていた。

 マスリリース同様、マスアンラシュなる技も、前衛上位スケルトンは皆して履修済みのようだね。

 背後からの斬撃によって、アドゥサルの両方の羽が体から切り離される。

 頑丈な尻尾だけは断ち切る事が出来なかったようだけど、羽を斬ると同時に前衛スケルトン達は剣と盾を投げ捨てて尻尾にしがみついて動きを封じる。


「我らが膳立てはどうかな?」


「最高ですよ!」

 ルインリーダーへと返しながら炎と風を纏った二振りを間合い一歩手前で構え――一歩足を踏み入れると同時に渾身の力にて振り切る。

 右手の残火による上段。

 左手のマラ・ケニタルによる横一文字。

 十文字を書いてバックステップ。

 ×の字からの十文字。米の字を書いてやった。


 ――指呼の距離にて見る正面では、切り裂かれた漆黒の鎧からあふれ出す鮮血。

 炎と風が俺の斬撃の軌跡を残して混じり合い、ここでも小さな炎の竜巻が生まれるも直ぐさま消え去る。

 小さな炎の竜巻は相対する者の命の灯火のようでもあった。


「こんな……こと……が?」

 自分が敗れることなど考えもしていなかったのか、致命的なダメージを受けたアドゥサルの表情は、現状を信じることが出来ないといった惚けたものだった。


「これは……夢だな……」


「夢ではなく現実。敗北を受け入れるのだな。そして永遠の眠りにつくがいい」


「アン……デッドが……眠れなどと……ふざけた言い様……だ」

 巨体が両膝をつく。


「魔王様……」

 ポツリと呟き……ズンッ! と質量のある音を立てれば伏臥の姿勢。

 今際の際に発するのは翼幻王ジズではなくショゴスか。

 

「油断は――と、言わずもがなだな」

 俺を見つつルインリーダーはそう言う。

 残心。

 動かなくなろうとも構えることはやめないのが俺ですよ。

 

 伏臥の姿を注視。


「――絶命したようです」

 と、エルダー。


「で、あるな」

 これにルインリーダーも続く。

 アンデッドだからなのだろう。生者が死者へと変わったことを見極める能力があるようだ。

 スケルトン二体がロングソードを鞘へと収める。


「やってくれたよ。まさか幹部を一人の人間とアンデッドの三体で倒すなんてな」


「強かったよ」


「当たり前だろ」

 尊敬するという大立者や幹部。

 その幹部の一人が倒されたというのに、ラズヴァートの声音は平静なものだった。

 声を荒げないなんてな。

 

 アドゥサルの会話の内容からして、


「派閥による垣根からか」


「ふんっ」

 鼻で返してくる。

 翼幻王ジズではなく魔王寄りだからこそ、アドゥサルの死にはそこまで大きな衝撃はないのかな。


「派閥が違うも、同じ要塞にて励む者に対する姿勢としてはどうかと思うがな。少しはこちらに対して怒りの感情でも見せればいいものを」

 ルインリーダーが呆れるも、


「うるせえよ! 目の前で仲間がやられてんだ! 腹に据えかねるものはあるっての!」


「そうか。その語気で真実だというのは伝わった」


「本当にムカつく金ピカだ! 拘束が解けたら真っ先に消してやる!」


「それが健在だということは、我らが主も健在だという証拠」


「これさえ無ければ回復だってしてやれたのによ! 面倒なバインドだよ!」

 平静かと思ったけども、堰が切れたかのように声を荒げるラズヴァート。

 派閥は違えども、仲間意識は強いようだな。

 なのに単独行動。

 仲間意識が強くてもそれを上手く伝えられない残念ボッチなのかもな。

 

 というか、


「マッドバインドには拘束した者の魔法を封じるって効果もあるんですね」


「だからこそのバインドだぞ勇者。捉えても魔法を使用されては意味が無いだろう。拘束状態で使用できるとなれば、術者よりも力が勝る者だけだ。勝る時点でバインドを無理矢理に解除するだろうが」


「俺が解除できないからって、こっちを馬鹿にしたように見てくんな金ピカ!」

 我らが主は凄いだろう。と、得意げなルインリーダーの姿に、ラズヴァートはますます顔を真っ赤に染め上げていく。

 

 開放されることがあれば、有言実行にてルインリーダーを狙うだろうね。

 まあ、逆に倒されるだろうけど。

 そう思えるほどに、このスケルトン達は強い。

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