PHASE-1513【十分に戦えている】

「そらそら!」

 正面を向き合っての攻撃となれば――おっかないの一言。

 側面からの攻撃を一瞥もせずに受け止めていた時とは圧が全くの別物。

 一つでも動作にミスがあれば、一撃で致命傷は必至。

 手先から足先。末端まで精神集中。

 目だけに頼らず、今までの経験で培ってきた体捌きで回避を成功させていく。


「チッ!」

 俺の回避が気に入らないとばかりに相対する者からは舌打ち。

 確実に攻撃を決めたいという事からか、両腕に尻尾の四方向からの攻撃に加えて蹴撃。

 伸ばしてきた前蹴りを躱し、お返しとばかりに反撃の一太刀で足癖の悪さを治してやろうと振り下ろそうとしたところで、


「ハァッ!」


「ふぅ!?」

 体を海老反りにして躱すのはコウモリのような羽。

 この羽にも長くて鋼鉄を思わせる爪が生えていた。

 生身の部分に当たれば、これまた命に関わる一撃になるだろうね……。

 そんなおっかないのでご丁寧に顔を狙ってくるんだからな……。

 

 多方向からの連続攻撃でたたみ込まれてはたまったものじゃない――けども、


「ええい! ちょこまかと!」

 と、声に混ざるのは苛立ち。

 そう! 苛立ち。

 

 ――つまりは、


「見切っているな勇者」

 ルインリーダーの言うとおり、アドゥサルの繰り出す攻撃速度にどんどんと慣れてきている。

 巨体に見合わない俊足に、圧倒的な膂力に魔法。

 殆どの才能が俺より上。

 だとしても――だ!


「脅威は感じても恐怖はないね」

 デミタス様々である。

 あの四本尻尾の美人仙狐との戦いは、俺の成長を大きく促してくれたな。

 強者とぶつかっても問題ないという胆力も備わったからこそ、相手の攻撃を冷静に見る事もできているからね。


「何をにやけた面を貼り付けている! 不愉快なっ!」


「っと」


「おのれ!」

 巨体からの素早いラッシュ。当たれば即死級のパイルストーム。

 相手もそれを理解しているから、こちらに勝る攻撃回数を有した攻撃を繰り出しつつ、ここぞという所で一撃必殺の大魔法攻撃を見舞ってくる。

 恐ろしくはあるが、一撃必殺で決めようとしているからか、どうしても動きが大味なものになっているのも事実。


「そこ!」

 ラッシュを躱して、捌いて、いなし、ここぞという所で残火による抜き胴。


「ええい!」


「ぬぅ……」

 苛立たせることは出来ても、決定打にはならない。

 巨躯を守る鎧は分厚い上に魔法付与だからか、ブレイズを纏わせた残火の刀身を以てしても、渾身の一振りでない限り深くは入らない。

 多方向からの攻撃を躱しつつの反撃だと、腰の入ったいいのが振れない。

 ――俺はそう思っているけども、相手はそうは思っていないようで、


「ぅうぬ……」

 と、悔しそうな声を漏らす。

 攻撃を躱されたあげくにダメージを受けることはなくても反撃を許している事に不快感を見せている。


「どうしたよ?」

 半笑いで問えば、


「黙れ!」

 と、怒気が返ってくる。


「初手と違って俺が攻撃を受けてくれない上に、反撃されているのが嫌なようだな」

 はっきりと思っていたことを口に出して伝えれば、


「ああっ! そんなわけあるものか!」

 大いにムキになっている。

 荒げた語気による返し。俺の発言が正鵠を射ているってことなんだよな。


「人間風情がなめおって!」

 お怒りなのはいいですけども、


「背後がガラ空きだな」


「空いているのではない! 容易に対応できるからこその余裕からのものだ!」

 言うだけあってルインリーダーの至近からの斬撃を一本の尻尾で受け止め、もう一本の尻尾で迎撃。


「煩わしい! アンデッド共め!」

 ピルグリムのプロテクションが尻尾攻撃を受け止める事で、ルインリーダーは二撃目を安全に振るう。

 が、それもバックラーのような籠手で対応。ここでアドゥサルがターゲット変更とばかりに反転。

 

 右手に纏ったパイルストームを向けようとしたところで、


「ブーステッド」

 ここで俺も動く。

 潜在能力の開放からアクセルへと繋げての、


「がぁっ!?」

 ブレイズを纏った残火でルインリーダーへと向けようとした右腕を狙って――斬る。


「浅いか」


「いいや、よくやった」

 褒めてくれるルインリーダーが俺に続いて右腕へと向けて剣を振り上げる。

 振り上げられた剣身には赤黒い輝き。

 マスリリースかと思えば、


「マスアンラシュ」

 と、初耳の一振り。


「ガァァァァァァァァァァア!?」

 アドゥサルの叫び声が室内に響き渡る。


「ふむ。切断まではいかなかったか」

 金色の鎧にロングソードを担うルインリーダーの前では、両膝をついて倒れ込む巨体。

 圧倒的強者感を見せつけるルインリーダー。


「凄いっすね」


「いや、勇者がいい動きを見せてくれたから――な!」

 返事をくれつつも、動きが止まった相手の姿は攻めるには絶好とばかりに肩に担った剣にて直ぐさま刺突。


「ちぃ!」


「巨体がゴロゴロと転がる姿は迫力があるな。みっともなくもあるが」


「アンデッド風情がぁぁぁぁぁぁあ!」

 風情が。っていうの好きだな。


「そのアンデッド風情に大痛打を与えられた気分はどうかな?」


「不快の極よ! ヒー――くぅ!」


「させないっての!」

 絶好の機会にある中で、強敵に上位回復魔法なんて使用させてやらない。

 ここで一気に仕留めたい。


「二刀……か……」

 呼吸が荒いし、声にも力がない。

 かなりの深手だな。

 ルインリーダーによる右腕に見舞った一振りでパイルストームも消滅。

 やはりここが攻め時だな!


「アクセル!」


「正面! 生意気なんだよ!」

 ブーステッド使用時のアクセル。

 間断なく動きを繋げることが可能な現在の状態からの二刀流。

 残火にはブレイズ。

 マラ・ケニタルにはウインドスラッシュ。

 力を纏った愛刀二振り。

 ×の字を書けば、交差する部分で炎と風が渦巻く光景を見せてくれる。

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