PHASE-103【上陸、潜入】

 だけども、バリスタでどうするつもりなのだろうか? あれがここまで届くわけないだろうに?

 俺たちが接近するとでも?

 シーゴーレムとはインファイトに近かったけども、こっちの射程は38㎞を超えるぞ。


「もしかしてだけど、ここで俺たちが停船しているのは、びびっていると思っているのか?」


「かもしれませんよ。あいつらの動き、余裕が見られます」

 迎撃準備にはゆとりが見られる。手には瓶を持っていて、時折、呷っている。

 バリスタを準備していた、先ほどまでの忙しなさが嘘みたいだ。


「なめてますね。一発、撃ち込んだらどうです」


「お前が熱くなるなよ」

 まったくお子様は……、すぐにムキになる。


「すぐにでも、酔いは覚めるさ」

 格好つけて口に出した。

 別段、俺が活躍するわけではないが、もうすぐ、おっかない二人が上陸するだろう。

 などと、考えていれば、


『――上陸した』

 簡素にゲッコーさんが連絡を入れてくる。


「了解です」

 返して、ディスプレイへと目を向ける。

 ゲッコーさん視点のFPSだ。

 

 見ていれば、ズイっと、横からコクリコが覗き込んでくる。

 遠隔魔法の類いなのかと、イヤホンに続いて映像に驚いているが、こっちとしては不意の美少女の接近に、あたふたしてしまう……。

 

 ――――だったが、ディスプレイには、ベルがウェットスーツを脱ぐところが映し出された。

 

 脱げば軍服姿が出て来るというのは分かっているが、接近した美少女よりも、ディスプレイ越しの脱衣に全部もってかれる俺のエロ精神。


『これ凄いですね。軍服も髪も濡れていない』

 スーツに感心するベルは、それを丁寧に畳む。

 その姿に、育ちの良さが垣間見られる。

 

 ――二人が移動を開始。

 足場の悪い、斜度にして六十度はあるであろう急勾配。

 ごつごつした岩肌だが、お構いなしに軽快に進んで行く。

 

 ゲッコーさんは分かるが、なぜにヒールの高いブーツで、ベルは毎度、軽快に移動出来るのか不思議でならない。

 あと、ゲッコーさんには不満がある。

 

 なぜベルを先に行かせないのか。

 ローアングルからのタイトなパンツルックを見たかったわけですよ。こっちは!

 口には出さないけど。出したら、これが終わった後に、間違いなく蹴られるからね。


 ――――邪な事を思っている間に、二人は登り切る。

 

 一帯が見渡せる位置で、双眼鏡を覗くゲッコーさん。

 コの字状の入り江には、木造建築がいくつか並んでいた。

 

 木造の色味から、新築に近いとのことで、海賊たちが自分たちで建築したんだろうと、ゲッコーさんは推測する。

 なぜにその技術を人様のために使わないのか、残念でならない。

 

 大きな建物から、小屋サイズ。

 その小屋サイズから、バリスタが運び出されているから、あそこは海賊たちにとっての武器庫だろう。

 

 隣の大きなのが塒だと思われる。

 とはいえ、憶測で行動して、的が外れていても困る。


『尋問する』

 俺と違って、確実を選択するゲッコーさんはベルを待機させて、歩哨の一人に狙いを定めると、光学迷彩を使用して、音も無く背後へと接近――。

 羽交い締め。一瞬の出来事で、相手は声も出せない。


『騒ぐな』

 渋い声は酷薄。

 ナイフを喉元にピタリと当てれば、「ひっ」と、怯えた声を小さく上げた。

 その感じで分かったことは、コイツは簡単にゲロするタイプだ。


『――――分かったぞ』

 はたして正にだった。

 聞いてもいない財宝の隠し場所まで教えてくれた。

 

 尋問時にはベルもいたから、お怒りである。

 話の内容がよくなかった。

 

 財宝の元になったのが、町村からの恐喝じみた徴収に、町で攫った女子供を売ったことで得た財貨だったからだ。

 だからだろう、軍服と同じ白の革手袋をすると、ベルは海賊の顔面を思いっ切り殴った。

 スゲー痛そう。悶絶する姿で理解できる。


 声を出されるのもやっかいなので、ゲッコーさんが首を絞めて落とそうとしたが、ベルは殴った拳を手刀に変え、首の側面に見舞えば、瞬時に静かになった。

 

 ゲッコーさん、的確な頸動脈への一撃だったと絶賛していた。

 

 だが、こんなシーンをディスプレイ越しに見てしまったからには――、


「恐ろしく的確な手刀。俺でなきゃ見逃しちゃうね♪」

 と、ドヤ顔になって独白してしまう。

 

 耳にしていたのか、訳が分からないといった視線をコクリコに向けられれば、恥ずかしさから顔が赤に染まってしまう。

 

 こういうのは、一人の時に、口に出すもんだな……。

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