PHASE-1003【鎮圧】

 飛翔する骨喰ほねばみをベルがレイピアで叩き落と――斬る。

 ベルの一振りは造作もない一振りだったが、ミスリルコーディングが何の意味もなしていないのがよく分かる。

 ベルの剣技の前では、ミスリルコーティング製も小枝の如し。


 ――骨喰の軌道は俺から外れて弧を描いたものだった。

 二人の発言と軌道から全てを悟る俺。

 というか、哀愁を帯びた目の時点で察するべきだったな。


 ベルがレイピアを振るった次には、ゲッコーさんがタクティカルグローブ越しに布を巻き付け、その指をマジョリカの口に突っ込み、即座に拘束。

 見事なコンビネーション。

 

 マジョリカは自刃のために骨喰を使用するつもりだったが失敗。

 失敗した場合、次の自裁方法として考えられるのが舌をかみ切るという選択だと判断したからこそ、ゲッコーさんは躊躇なく指を口に入れたわけだ。


「簡単に死を選ぶもんじゃないな。これまで傭兵団が起こしてきたことに対する責任を自らの死だけで完結できると思わないことだ。そんな簡単な解決法で許されることじゃない」

 怒気によるゲッコーさんの言葉。

 

 暴れて抵抗しようとするも、ゲッコーさんの拘束から抜け出そうなんて不可能。

 急に押さえつけられる自分たちの団長に対して、傭兵たちが動き出そうとするが、包囲するこちらサイドによって動きが制限される。

 そんな中で一人がこちらへと向かってくる。

 ガラドスクだった。

 自慢のウォーハンマーは持たず、無手による接近は戦闘の意思のないもの。

 

 奥で座り込んでいるカイルを見て目が合えば、鷹揚に頷きで返してきた。

 得物と拳で語り合ったことで、ガラドスクの人間性が信頼できるものだと感じ取ったんだろうな。

 

 カイルを信じ、敵意はないと判断。

 こちらを刺激しないように距離を置いてからラドスクが立ち止まれば、


「まずは二人に感謝したい」

 巨躯が頭を深々と下げる。

 一回り小さくなったんじゃないかと錯覚するほどに深い一礼だった。

 ベルとゲッコーさんが自裁を止めたことが大恩であるとばかりに、こちらに感謝する。


「団長。ここで団長が自ら命を絶てば、我々もそれに続きます。それを避けたいのならば、自害などやめてください」


「その通りです……」

 あ、シェザールも立ち上がるだけの回復は出来たみたいだな。

 空気の読めないコクリコだが、ここではシェザールの行動を尊重してやった。もちろん涙目で頭をさすりながら……。


 二人が語りかければ、マジョリカも暴れるのをやめて静かになる。


「今までの行いは決して看過できないけども、仲間との信頼関係は俺達と似たようなもんだな」


「この才能をもっと違うことに使用するべきだったな」

 と、ここで爺様が俺の発言に続く。

 静かになったマジョリカだったが、拘束される中でしっかりと殺気を迸らせているのが分かった。


「もういいんですか?」


「情けない姿を見せてしまった。なんせ我が可愛い孫が死にかけたのだからな」

 義理だってのに可愛い孫とか……。本当に、身内には甘々なのが弱点だよな。この爺様は……。


「さてエレクトラ――ではなく、マジョリカ・マジマドルと呼んだ方がいいだろうか? こちらの話を聞くだけの冷静さはあるかな?」

 ゲッコーさんに指を突っ込まれているからフーッ! フッーッ! っていう息しかもれないけども、冷静さがないのは見て分かる。

 

 でも――、


「もう、いいんじゃないですか」


「そうだな」

 言えば、ゲッコーさんも問題ないと判断して指を出す。

 タクティカルグローブに更に布を巻き付けていたとはいえ、興奮した時の顎の強さにはヒヤヒヤさせられる。と、冗談まじりに指が安全だった事を喜ぶゲッコーさん。

 

 そんな冗談は聞こえていないとばかりに、マジョリカは爺様を睨むだけ。

 矢庭に立ち上がって、今にも躍りかかりそうな気概がある。

 恨みであったとしても、自裁が頭の中から無くなったのならば良しとしよう。

 爺様もそれを狙っての登場だったのかもしれない。


「さて、屋敷に入って話でもするかな?」

 爺様の提案に、


「望むところだ!」

 と、怒りと共に返すマジョリカ。


「よいかな? トールよ」

 屋敷の現当主である俺に対して許可を爺様が取ってくるので、


「良いですよ。ついでにマジョリカの護衛として、この二人も入る事を許可しますよ」


「豪気だな」

 と、ガラドスク。


「豪気だろ。豪気に出られるだけの余裕があるからな」


「――その様だ」

 戦いは終わった。

 つまりはスパルタ二人からの経験値アップの試練も終わったことになる。

 こうなった状態で尚も戦いを挑んでくるとなれば、無用な戦いと判断したスパルタ二人は本格的に動く。

 

 その証拠とばかりに、傭兵団へと圧をかけるのとは別に、団長と二人の団長補佐の背後に音も無く立っていた数人のS級さんは、MASADAを持って待機。

 おかしな動きをすれば、構えて撃つだけの状態。

 

 突如として側に現れたかのような錯覚を起こさせる歩法の使い手たち。

 その歩法だけで、自分たちでは全くもって相手にならないと判断したようだ。

 これが豪気であり余裕になれる俺の理由なんだと即、理解もした様子。

 

 ともあれ、傭兵団との戦いは、こちらの鎮圧成功によって終結。

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