PHASE-1443【今度はちゃんと生まれてね】

 ――――。


「いよいよですか」


「いよいよです」

 エビルレイダーが繭を作ってから二週間が経過。

 長男のアルゲース氏に問えば、大きな首肯と共に返してくる。

 

 ――キュクロプス三兄弟に、ザジーさんが見守ってくれていたこともあって、順調に成長してくれた。


「頼むぞ」

 と、懇願するベル。

 可愛くあってくれ! と、強く願っていた。

 数日前に俺を完膚なきまでにボコボコにした時とは別人なんだよね……。

 そんなベルを見つつ、周囲にも目を向ける。

 前回、繭に触れて願いを伝えた面々と一緒に誕生の瞬間を見守る。


「眠い……」

 目を擦るコクリコの姿は、ナイトガウンの寝間着姿というレア衣装。

 空が白み始めた時間。睡魔との格闘に苦戦しているご様子。


「次の目的地まで世話になる新たな仲間の誕生なんだ。ちゃんと見守っておかないとな」


「です……ね……」

 立ったまま眠りにおちていくコクリコ。器用なヤツだよ……。

 仕方ねえな。

 睡魔に打ち勝つ言葉を送ってやろうじゃないの。


「新たなる仲間に乗り、魔王軍大幹部の拠点へと攻める。歴史に名を残す偉業に人々は大きな関心を抱くだろうな」


「そうでしょうとも! さあ! 我が翼となる者よ、目覚めるがいい!」

 コクリコにとって歴史に名を残すという台詞は、どんな目覚ましよりも効果があるようで、俺の発言で目がくわりと見開き、琥珀色の瞳をギラッギラに輝かせて繭を注視。


 ――シャルナとリンによるファイアフライで照らされる繭は幻想的。

 その幻想さを更に強めるかのように――、


「「「「おお!」」」」

 繭が淡い緑光を放ち始める。

 この光景に、集まった皆で驚きと期待を混ぜた声を上げる。


「もうすぐですよ!」

 髷一つが目印である長男アルゲース氏の興奮した声。それに続くように共に見守っていたザジーさんも鼻息を荒くしていた。

 緑光の輝きは繭の内部からのもの。

 その輝きが徐々にだが強くなっていき、繭だけでなく、それを固定する同成分の周囲に張り巡らされた糸にも伝播。

 ファイアフライの輝きと一緒になって防御壁と修練場を照らす。

 

 これには白装束で全身を隠しながら、防御壁の強化に日夜励んでくれているスケルトン達も動きを止め、何事かとばかりに壁上から眺めていた。

 上位ではないスケルトン達は命令を黙々とこなすだけなんだけども、作業を止めて眺めてくる辺り、主であるリンの思考とリンクしているのかもしれない。

 そんなスケルトン達とは違い、同じ高さにいる王都兵が見てこないのは流石の一言。

 繭からの誕生よりも、立哨として王都外の見張りを優先していた。


「おお、間に合ったか!」

 と、


「王様」


「報せを聞いて馳せ参じたぞ」

 王城から西の防御壁までは距離がある。

 普段は大通りを馬を利用しての移動だが、今回は速度重視だからか、エンドリュー候のワイバーンを借りてきての上空からの登場だった。


「乗れるんですね」


「王都に留まっているエンドリューに時間がある時に指導を受けていてな。直ぐに騎乗できたので驚かれたものだ」

 王様自身の実力もなんだろうけど、先生が王都にいる時点でユニークスキルである【王佐の才】の能力下にあるからな。

 その恩恵もあって、習得速度も上がっているんだろう。


 それはさておき、


「こちらへどうぞ」

 特等席の一番前を勧める。


「上空からも見えていた輝きだが、近くで見ると神々しいものだな」


「こちら側の反攻のきっかけを作ってくれるであろう存在ですからね」


「そうだな。神々しくて当然だな。我々の未来を照らしてくれる輝きなのだから」

 呵々と笑う王様。

 まだまだ寝ている方々もいる時間帯なので迷惑な笑い声なんだけども、声よりも先にこの輝きが原因で、修練場近くで寝泊まりをしているギルドメンバーや冒険者の面々が目を覚ましていた。

 厩舎で寝泊まりしている新人さんや倹約家さん達が遠巻きで見ており、徐々にざわつき始める。


「このような神秘に立ち会ってこその冒険者であろう。遠巻きに見ていてどうするか! 我らと共に指呼の間にて誕生を目にせよ!」

 遠慮せずにもっとこっちへ来いと、手振りを入れての王様。

 リアクションに対し、遠巻きにいる面々はなんだあのおっさんは? みたいな感じだったけど、言っていることはもっともだと思ったようで、冒険者としてこの神秘な光景を至近で見ないのは損とばかりに、王様の声に応じて冒険者の面々が駆け寄ってくる。

 

 ――声の主がただのおっさんじゃなくて王様だったことを知るのは、俺達の立つところまで近づいてからだった。

 相手が相手だったので緊張する新人さん達だったが、気さくな王様は背中をバシバシと叩きながらもっと近づいて見ないか! と言って繭に近づかせていた。

 その姿は王様というよりは、田舎あるあるの距離感がバグってる近所のおっちゃんのようだった。


「皆さん。もうすぐのようですよ」

 アルゲース氏の発言に、テンションが高かった王様も口を一文字。

 王様が静かになったところを見計らったかのように繭の方から――ピシッ! と、短い亀裂音。


「キタキタキタッ!」

 亀裂音と共に、繭の中心部分にヒビが走る。

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