PHASE-866【腹を撫でられてるから】
血色は完全に奪われて、体温のない体となった現在。
だというのに生者のように動ける体。
体験したことないし、体験したくもないけども、なった者はかなりのショックを受けるようだ。
精神耐性が生前のままなら尚更だろう。
死んでいるのに生きているような感覚。精神耐性が無い時点で俺なら精神崩壊を起こすね。
自分に死が訪れたことを受け止めたくない馬鹿息子は、立ち上がってこの場から逃げ出そうとしていた。
現実逃避を体現してくれる……。
「往生際の悪い」
往生際って……、既に死んでいるんだけどね……。
ミランドの一撃によって地面に倒れる……。
「どんな対応だよ……」
まさかの自分の頭を投げつけるという荒技を見せてくれるとはね……。
「いい加減に観念してください」
「ひぃひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
地面に転がる頭が真顔で語りかけてくればそらホラーだわな……。
――……。
「少しは落ち着いたか馬鹿」
「馬鹿馬鹿と言うな!」
「調子は出てきたな」
「黙れ!」
元気にはなったな。
まあ、こんな奴がいつもの調子に戻っても良かったなんては思わないけどな。
アホみたいな事で多くの人間に迷惑をかけたんだからな。
「よもやこうなるとはな」
「偽王め!」
侯爵、伯爵と共に王様が到着。
苦々しい表情で馬鹿が睨むも、それを意にも返さず逆に睨む。
アンデッドでも精神耐性で恐怖を無効化できないからか、即座に視線を逸らすヘタレっぷりは死しても健在。
「死をもって敗戦の責任をとるのも戦の習わしではあるが、よもやアンデッドとはな」
「好きでなったわけではないぞ! オルトロス! 敵を倒せ!」
――なとど言ったところで意味はない。
だって、
「よしよし」
犬が服従するかのようにベルにしっかりと腹を見せているからな……。
舌を出して喜んでいる。
撫でるベルも巨大なモフモフにご満悦。
「あ……あ……」
「お前がアンデッドになる間に既に手なずけている。お前の切り札であったオルトロスだろうが、真の強者の前ではああなのだ。分かるか? 端からお前に勝利の二文字はなかったのだ」
ずばりと王様。
その時、
「キュゥゥゥゥン」
甲高い声が上空より聞こえる。
それは侯爵の竜騎兵が騎乗するワイバーンの鳴き声だった。
「よろしいでしょうか。王」
「無論だ」
鷹揚に頷く王様から許可を得た侯爵が右手を挙げて大きく円を描けば、ラフベリーサークルから一頭のワイバーンがコロッセオへと着地。
竜騎兵の方が下馬――下竜し、王様の前で片膝をつくと、
「北側要塞外周にて待機していた兵達が動き出しました。更にその後方より増援。総数で一万ほどです」
「ハハハッ! まだまだ終わりではないようだな!」
「アホか。いや、馬鹿だったな。いまさら一万が動いてどうなるんだよ」
こっちは要塞をほぼ抑えたと言っていい。
しかも兵数はこっちが上。
それが堅牢な要塞にいる時点で、一万だけで攻めるなんて無理がある。
それに――、観客席を見渡せば、増援の報を耳にした面々が北側の壁上へと素早く移動開始。
士気は高く、練度も高い兵士や冒険者たち。
万が一、戦いになっても相手は何も出来ない。
近づいて来ているのがこの馬鹿のような思考ではないかぎり、戦いを仕掛けるなんて考えは起こさないだろう。
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