PHASE-865【とりあえず何とかなった】
にしても、なんと呆気ない最後。
それでいいのかカリオネル。さんざっぱら偉そうにしといてこんな最後とか。
少しでも武に精通していたなら素早く回避していただろうに。
これが普通の人間が立ってはいけない戦場に立った結果。ということになるのだろうか。
――……とにかくだ。うん、とにかくタイムマシンを探して……じゃない!
「とりあえずオルトロスモドキ、スタンドアップ」
もしかしたらの可能性もある。
生きている可能性を……いやまて、あの音にオルトロスモドキの質量。
「モドキ! ステイ!」
とっさに待ての指示。
ステイが通じるかは分からないが、拳で自身の巨体を吹っ飛ばした人間が裂帛にて発せば、体を硬直させて留まる。
「グッボーイ」
と、褒めつつ、
「ミランド、どう思う? アンデッドとして忌憚のない意見を――」
継いで側にいる人物に問えば、
「ああ……そうですね……。わずかな可能性を信じたいのですが、あの音ですからね」
と、正面からずれた、下方部分の位置から声が聞こえてくる。
頭は小脇に抱えているからな。
「……やはり無理かと。あの巨体の下から死を感じ取れますので、間違いないかと……」
「そうか……」
アンデッドに言われれば、説得力もあるというもの。
「どうしよう……」
とりあえずモドキをどかさないといけないんだろうけど、本格的に【うへ……完全に押しつぶされちまってる。ミンチよりひでぇよ】って言ってしまいそうだ。
そんな冗談が頭に浮かぶくらいには俺も対面する死になれてきているな。
ここは――、
「リン」
「はいはい」
「これは死んでるよ……ね?」
リンにも確かめる。
「死んでるわよ」
きっぱりと返ってきた……。
「どうにかしてください……」
「どうにかしてあげましょう」
ありがたいのはネクロマンサー様の存在。
――………………。
――…………。
――……。
「……はひぃ!? ぐえ!?」
「起きて早々に変な声を出すんじゃないよ馬鹿」
ついつい殴ってしまった。
「おのれエセ勇者! この尊き存在に手を出すとは!」
「いつまでエセって言ってんだよ……。死んでも尚、変わらないな」
「はっ! 何を馬鹿なことを」
「起きた直後の変な叫びは何が起因だ? はひぃ!? ってやつ。大方、オルトロスモドキがお前の頭上から落ちてきた記憶だろ?」
「……は!? はぁぁぁぁぁあ!?」
「だからうるさい」
さっきから素っ頓狂な声を出してくれて。
「現実を見ろ」
「何を言っているのだ……なにを!」
何となくだけど、自分が現在置かれている立場を理解したのか、受け入れたくないといった気持ちに支配されているようだな。
「まずは自分の手を見る事ですね」
ここでコクリコが発せば、嫌だ嫌だとだだをこねる。
自分の手を見たくないとか中々だな。
「いいから見る!」
リーンと小気味のいい音が馬鹿の頭から奏でられる。
ミスリルフライパンによる一撃は中々の威力。
普通ならもんどり打つね。
でも打たない。力もない打たれ弱い存在である今までからしたら考えられないことだろう。
「な、起きて早々に俺も拳骨を喰らわせたけど、その時は反射的に痛さを口から漏らしたが、実際は痛みを感じていないはずだぞ。痛覚は無いはずだから」
「な、ななな何を……言っている。痛みは……」
「――無いんだろ」
カタカタと震える馬鹿息子。
「さあ、受け入れなさい」
と、詰め寄るコクリコはミスリルフライパンを振り上げる。
「ひぃぃぃぃ……」
痛みはなくても恐怖はある。
リンほどのネクロマンサーともなれば、アンデッド創造による調整は自由自在とのことだ。
無痛、精神耐性なんかは当たり前なんだけど、あえて人としての精神を残す事で、恐怖を覚えることも可能だという。
目の前の馬鹿を見ればそれは本当だと理解できる。
――――恐る恐るで時間はかかったが、自分の肌に視線を落とすと、お馬鹿がもう一段階上の奇声のような悲鳴を上げる。
コロッセオ全体にアンデッドの悲痛な叫びが響き渡った。
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