PHASE-640【侯爵の装備】

 ――――次の日の朝にはバッチリと揃えてくれるのが侯爵だ。

 お願いした最高の装備は別邸の大広間に準備される。

 デザインは俺が装備していたブリガンダインと同じような物だった。

 裏地となる金属は輝いて目立つ物。

 普通に鎧として使用したら、金ピカの輝きで真っ先に相手に視認されそうな物だった。

 だからこそのブリガンダインなんだろう。

 表の生地は革素材。

 黒色のレザーに裏地が金ピカの金属。

 じっと見ていれば、


「私が所有する最高の一品から作られたものです」

 と、鼻高々な侯爵がもっと見てくれと言わんばかりに、ブリガンダインを手にして俺へと近づける。


「この金属は何なのでしょうか?」


「おや? 勇者殿はご存じないのですかな?」

 新品の五円玉みたいに金ピカな色だけども――、


「金で出来ているんでしょうか?」

 お金持ちの鎧は金で出来てるのかな?


「そんなわけがありますまい。これはオリハルコンですよ」


「これがオリハルコン」

 オリハルコンってこんな色なんだな。

 イメージ的にはミスリルみたいに、青白い光を放っているような物だと思っていた。


「私自慢の装備です。戦いに赴けばこの装備で大活躍したものです」

 なるほど……。

 つまりは侯爵が戦場で命を預けている装備か。

 ――こんな風に思えば、そんな大切な物を貸してくれるなんて本当に素晴らしい御方だ。と、なるんだけども……。

 おっさん愛用の装備と考えてしまえば、鉄製でもいいので新品をお願いしますと言いたい。

 てっきり未使用のコレクション的な物から選ぶと思ってたからな。

 だが俺は悲しきかな日本人。


「ありがとうございます」

 と、心とは反対の事が口から出てしまうのさ。

 相手をおもんぱかる文化が他国よりも発達している国の人間。

 忖度! そう! 侯爵に対する忖度です。

 おもんぱかるが故に、NOと言えない国民性なのです。


「あ、でもサイズが」

 侯爵は俺よりも身長がある。なのでこれはサイズが合わないと思うので、別の物をと言おうとしたが、その発言を待ってましたとばかりに、にんまり笑顔な侯爵は、


「大丈夫ですよ。なんといってもオリハルコンですから!」

 俺としては大丈夫じゃないんですけどね……。

 オリハルコンは魔法の力を強く封じる事も出来、様々な攻撃魔法に対して耐性もあったりするそうだ。

 もちろん火龍装備に比べたら下の下だが、魔法を封じた力には他にも特徴があるようで、


「さあ、装備してみてください」

 嬉々として勧めてくるので、笑顔を貼り付けて袖を通す。

 おっさんの勝負装備と思うと抵抗も芽生える俺は十六歳。

 相手の好意を考えると本当に失礼な考えなんだけどね。これがイリーが装備しているとかなら直ぐに着こなしてみせるんだけどな。


「――おお!?」

 装備するとあら不思議。

 体にフィットするように、裏地のオリハルコンの形が変わっているのを体で感じる事ができた。

 装備者によってサイズが自由自裁に変わるらしい。

 プラグスーツが真っ先に頭に思い浮かんだ。

 レザー部分もオリハルコンに合うように変化するのは、オリハルコン同様に魔法付与が可能な希少生物の皮から作られた革素材だからとの事。

 ファンタジーの素晴らしさに感動が先行。おっさんの装備が体にフィットってのが遅れて頭内を占め、残念な気持ちになってしまった……。


「さあ、次はこちらを」

 と、ロングソード。

 剣身は真鍮色のもの。


「この剣も」


「はいオリハルコン製です」

 先ほどから自慢のためか声が大きい。

 オリハルコンはこの世界では希少な鉱物。

 これらで装備を揃えられるのは正に力の象徴。大貴族としての威厳を示すものでもあるそうだ。

 この他にもガントレットとレッグアーマーを借り受ける。

 やはりオリハルコン製であり、革素材が表地になっている作り。

 腕や臑に装備すれば、鎧同様に俺のサイズに変化する。


 盾が無いのが不安でもあるけど、元々、使用しているのが両手持ちの刀だからいいのかな。

 戦闘スタイルを自由に変更出来るほど俺は器用じゃないし。

 

 並みの武器どころか、ミスリルで作られた武器までならば、オリハルコン装備であれば容易く防げるという。

 対オリハルコンで傷がつくってことだ。

 ガントレットを盾として使えるというのは、火龍の籠手と同様なので助かる。

 イグニースによる炎の盾を顕現させる事は出来ないけども、そこは仕方ない。

 火龍装備に頼りきって、その辺りの経験を培わなかった俺の失態だからな。

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