PHASE-639【装備が俺の全てじゃない】

 ゲッコーさんの言は正しい。

 侯爵のワイバーンが、俺の装備に畏敬の念を抱いた前例があるからな。

 ドラゴンゾンビの場合はアンデッドのせいか効果はなかったけど。

 生ある存在ならまず間違いなく火龍の鱗に反応を示すだろう。


 火龍の威光を感じ取ったミストドラゴンの選択肢は二つ。

 威光に当てられて素直に平伏するか、恐れてずっと逃げ回り出会えなくなるか。

 後者なら時間だけを浪費する最悪のパターン。


「これは装備なしが最適解だな~」

 

「装備がなくても現状のトールなら問題ないはずだ」

 嬉しい事をベルが言ってくれる。それだけ俺の事を信頼してくれているって事なんだろうけど、装備に付属されたタリスマンがないと、ブレイズもイグニースも使用出来ないのは痛い。

 そもそも火龍装備ありきの火炎系魔法だからな。

 狭いダンジョンだと、大魔法であるスプリームフォールだって使用出来ないだろうし。

 今回のクエストでの攻撃面は、自身の技量とピリアで対処するしかないな。

 でも防御面が頼りないのは嫌だ……。

 ゲームの世界なら新装備を選択する時、俺は間違いなく武器を優先するだろうけど、こと現実となると、命を守るための防具を選択したい。

 火龍装備の絶対的な防御力と炎の盾は、戦闘中において高い安心感を与えてくれる。

 その安心感が有るから、俺は正面切って、相対する存在達に立ち向かえてたってのも正直あったりする。

 装備に頼っては駄目なのは分かっているけども、あの安心感は依存してしまうくらいに偉大だ。


「まあトールは大幅に弱体化してしまいますが、私がいるので問題ないでしょう」

 言い返したいけど、偉大なんて思っていた矢先にこの発言だからな。反論も出来ねえや……。

 なんでいつも強気でいられるのやら……。

 俺と違って神話クラスの装備でもない。というか、出会ってからずっと装備が変わっていないのに、俺たちと同じ戦いに参加し続けているコクリコって凄いな。

 ベルやゲッコーさんは別次元だから除外するとして、初期装備が立派なシャルナと違い、コクリコは普通のローブにワンドだからな。

 そんな装備でいままで強者と相対していたわけだ。

 中盤以降の敵を相手に、ひのきの棒と旅人の服で戦っているようなもんだ。

 圧倒的な自信が、装備のディスアドバンテージを振り払っていると見るべきか。


「コクリコって格好良い」


「な、何ですか急に!?」

 素で称賛してしまった。

 そこには嫌味も何もなく、純粋な心での発言だったから、コクリコが照れていた。

 残念なやつだがそこは美少女。照れる姿は可愛らしい。


「と、とにかく、トールは無理をしないように。そして代わりの装備を揃えてください」


「おうよ。リン、今から行く場所のモンスターの詳細を教えてくれ」


「色々ね。アンデッドに暗がりを好む獣系。後は――ダイヒレンとか」


「ひゅぅ……」

 ベルからすっごく可愛らしい声が漏れていた。

 ツッコミを入れたり茶化すと殺されそうだから、聞こえなかったていでいく。

 暗がりを好むって事は、


「洞窟か、ダンジョン系かな?」


「後者よ」

 後者なら廃城の地下施設を経験しているからな。


「ちなみに地下施設と違って迷宮にもなっているから」

 なるほど。

 道に迷わないためのマッピングは最重要だ。

 マッピングのスキルとかないんだけど。


「慎重に立ち回れよ。無駄に動き回れば迷って終わりだ」

 と、ゲッコーさんからのアドバイス。

 渋くて低い声で言われると、アドバイスよりも怖さの方が強かった。

 基本としてはコンパスが北を向けばそれを地図に書く。

 スタートして分かれ道があった場合、番号やアルファベットなんかで目印を分かれ道になった通路や壁に書き、地図にも同様に記入。

 そしてその地点でも方位を地図に記入する事で、自分たちがいまどの方角を向いているかも分かる。

 チェックポイントとしても活用するので面倒くさくても記入するようにとの事だった。

 慎重に立ち回らないといけない状況で面倒くさがると、取り返すのつかない事に陥るからな。

 面倒事は小さい時に必ず対処。放置すれば小さい面倒が大きく育つ――だそうだ。


「ダンジョンは暗いのか」


「まあ通路は暗いわね」

 となるとライトは必須。

 ファイアフライが使用出来ないコクリコさん。

 なぜに中位魔法は使用出来るようになったのに、灯りの代わりになるファイアフライは使用できないのか……。

 単純に、目立つ攻撃魔法じゃないから習得してないんだろうな。

 ビジョンがある俺は暗闇は問題ないとして、


「――リンは暗闇ってどうなの?」


「私、アンデッドだから」

 アンデッドだから。って答えになってないぞ。まあ暗がりでも問題ないってことなんだろうけど。

 コクリコには必須だな。

 俺も常にビジョンを使用すると疲れるから携帯しておきたい。

 

 ライトを数本と、武器にも使用出来る松明。あと戦闘時は両手を使用するから、腰に下げられるランタンも持っていけば問題なしだな。

 マグライトはゲッコーさんから借りて、後は侯爵に頼もう。

 うん――――侯爵に頼もう。

 火龍装備が駄目ならば、侯爵が持っているであろう最高の装備を提供していただきたいところ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る